手放せない可能性


「今日はラーメンな。」

「今日は、じゃないからあんたに奢ったこと一度もないから。はやく練習に戻りな。」

「なんだよノリわりーな。」

「あんたのノリは私にメリットなさすぎんだよ。」

「へーへー。」

そう言って灰崎は練習へと戻っていった。

あれから数日。何故か私と灰崎は親しく(?)なった。私がお目付け役として割と積極的に関わっているのもあるだろうが、灰崎から話しかけてくるのもなかなかに多い。会話の大抵は上記のように、なにかを奢るよう促す内容か罵倒だが。ほんといい加減殴っていいだろうかこいつ。

そして反対に、赤司とはあまり話さなくなっていた。もちろん、タオルやドリンクを渡すのを先輩に任しているというのもある。しかし以前のように赤司から私に話しかけてくるということもなかった。
これは、私が灰崎と話していても殴りかからないあたり、もう暴力事件は起こさないと判断されたのかもしれない。気分は巣立ちだ。

「おい名字。」

「あっはい。」

少しぼんやりしていると虹村先輩に声をかけられた。返事をすれば、ん、となにかが差し出される。

「?これは、」

「ラーメンのクーポン。期限今日までだし、暇なら今日行って使ってくれ。」

ラーメン。なんてタイムリーなものなんだろう。有難うございますと言って受け取って見ると、最近有名になってきたチェーン店のものだった。

「今日行こうと思ってたんだけどよ、用事入っちまって。使わねえのももったいねえし。」

「でもどうして私に?」

「お前には灰崎の面倒頼んじまったしな。しょぼいもんだけど、その礼だ。」

そう言って虹村先輩はニカッと笑う。う、眩しい。やっぱかっこいいなこの人。
クーポンをよくよく見れば1枚で3人まで利用可と書いてあった。帰りにさつきちゃんでも誘ってみようかな。



「私今日はちょっと…。ごめんね。」

部活が終わったあとさつきちゃんをラーメンに誘ったがこう返ってきた。 さつきちゃんが無理なら仕方ない。せっかくの虹村先輩の好意だけどこれは灰崎にあげよう。ラーメンが食べたいと言っていたし喜ぶだろう。
私は更衣室に向かう集団の中から灰色を探す。…居た。

「灰崎ー。」

「…あ?」

「これあげる。ラーメンのクーポン。」

「…なんだよ、タダ券じゃねえじゃん。つか、お前も一緒に来いよ。」

「え、灰崎奢ってくれるのやったねありがとう。」

「しばくぞ。……お、これ3人までいけんじゃねえか、誰か誘おうぜ。奢ってくれそうな奴。」

「誰か?」

「おーい、赤司ー。」

「…へ。ちょ、」

「なんだ。」

「ラーメン屋行こうぜ。」

水道で顔を洗い終え帰ってきたらしい赤司に、ほらここの店、と灰崎はクーポンを見せた。
え、ちょっとなにしてんのこいつ。灰崎がたまに赤司と私を見ているのには薄々気づいていた。多分私と赤司が今あまり話していないのも知っているはずだ。
そのうえで一緒にご飯誘うとかわざとでしょ。お前からかう気満々でしょ。顔がちょっと笑ってんだよ。

…ん?いや、待てよ。少し待てよ。
赤司は確か、灰崎とはそこまで親しくないはずだ。だから、わざわざ誘いに乗る理由もないだろう。よし、断れ赤司。コンビニに誘った私が言うのもあれだけど、こんなチープな店は赤司には似合わない。だから断れ赤司。

「いいな、行こうか。」

なんですと。


戻る
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -