いざすすめよぼくらの青


ある日の部活後。

「よお。」

「木村先輩、お疲れ様です。」

「おう。あー…あっぢー、水水。」

外の水道側で、部活中に終わりきらなかったビブスの整理をしていると、木村先輩がそう声をかけてきた。
目当ては水道横にあるウォータークーラーみたいだ。季節はもうすぐ6月。湿気も多くなりそろそろ体育館での練習が暑くなってきた。

「おい名字。」

「あ、宮地先輩。先輩も水ですか。」

「残念だったな宮地。水は今俺が飲んでる。」

「ちっげーよ。いや、水も飲むけど。」

ほらこれ、と言って宮地先輩は袋を差し出してきた。コンビニの袋だ。なんだろう?と思いつつ大人しく受け取り中身を見てみる。中に入っていたのは結構な量のお菓子だった。あとジュースも入っている。

「この前なんか奢るって言っただろ、それでいいな。」

「…ああ!コンサートの!」

そうだ、確かみゆみゆのコンサートの時チケットを譲ったお礼に何か奢ると言われていたんだった。すっかり忘れていた。一緒にコンサートに行けて楽しかったし別にいいのにそんな。

「律儀ですね。ありがたくいただきます。」

「おお。あとこれは緑間にやっといてくれ。」

そう言って追加で渡されたのはおしるこの缶だった。それを見て、私は思わず木村先輩と顔を見合わせる。

「宮地…お前…。」

「…宮地先輩が、デレた。」

「…ああ!?なんでそーなんだよ!」

「だって普段あんなに真ちゃんにブチギレてるのに!」

「あれはあいつがわがまますぎるからだろ!」

「これからはデレる宮地の時代が来るのか。」

「んなもん一生こねーよ!」

「これはしかし真ちゃん泣いて喜びますよ。やだ…泣いてる真ちゃんとか想像するだけで綺麗…!」

「キモいんだよ刺すぞお前!」

「で、俺にはなんもくれねえの?」

「お前は関係ねえだろーが!!」

ゼーハーと宮地先輩は息を切らして突っ込んだ。木村先輩はそれを見て笑う。おお、宮地先輩がツッコミ役してるのも軽くいじられてるのもレアだ。ちょっと面白いかも。
そう思いつつ、私は袋の中からジュースを取り出し封を開けた。ちょうど喉が渇いていたし甘いものが飲みたかったところだ。ビブスの整理も終わったし、失礼しますいただきますと言ってそれを飲んだ。…おいしい。

「おいしいです。」

「いいな。宮地、俺にも奢ってくれ。」

「だからなんでお前に奢らなきゃいけねえんだよ。」

「木村先輩半分飲みます?」

「やめろよお前そんなんしたらまた緑間の機嫌悪くなんだろ!」

「あ、…確かにそうですね。」

「学習しろ!」

「宮地お前叫びっぱなしで喉乾いたろ。名字、今飲んでるやつ宮地にもわけてやれ。」

「どうぞ。」

「お前今言ったばっかなのになんも学習してねえじゃねーか撲殺すんぞ!!」

「お前今日ツッコミきれっきれだな。」

「誰のせいだと思ってんだ!!」

…今日の宮地先輩、めちゃくちゃ面白いな。私は2人のやり取りを見て笑いそうになるが、笑ったら轢かれそうなので必死にこらえる。上がる口角を隠すために私はジュースを一気飲みした。

「てか、なんで俺にはなくて緑間にはあるんだ?」

おしるこ、と木村先輩は続ける。確かにそうだ。真ちゃんがなにか宮地先輩に恩を売るようなことをしたとは思えない。真ちゃんは無愛想が服を着ているような人間なので絶対にそんなことはしない。
宮地先輩は、むすっとした表情で口を開いた。

「…あいつ最近がんばってんだろ。」

その言葉を聞いて私たちは2人して頭を抱える。…何と言うことだ。

「なんだよお前ら。」

「…なんてこった。宮地が緑間に優しい。」

「なんなんですかツンデレですかツンデレは真ちゃんで事足りてるというのに!」

「はあ!?そんなんじゃねえよ!」

「ツンデレはみんな決まってそういうんですよ!」

「そうだぞ宮地、認めろ。」

「うるせーよ!轢き殺すぞ!」

そう叫ぶ宮地先輩の怒鳴り声は、辺り一帯に響きわたった。


戻る
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -