「なんで高尾なんだよ。」 「1年のくせに。」 ああ、やっぱりだ。 練習が終わり今は居残り練の時間。私は体育館倉庫で備品の在庫を確認していた。 すると外から聞こえてきた話し声。この声はおそらく2年の先輩方だろう。倉庫の扉は閉まっていて、私がいることには気づいていないみたいだ。 そのまま会話は続いていく。内容は予想していたものだった。高尾くんへの嫉妬、僻み、妬み。 聞きたくない内容だけど、先輩方はちょうど扉の向こうで話しているみたいなのでこの場を去ろうにも去れない。盗み聞きなんて駄目なのは分かっているけど聞こえてくるからには聞いてしまう。どうしよう。 「お前ら馬鹿じゃねえの。」 「…宮地。」 誰か来たみたいだ。外にいる人の反応とその声からしておそらく宮地先輩だ、弟の方の。 「高尾のほうがうまかった、それだけだろ。」 「…でもお前悔しくねえのかよ。」 「悔しくないわけじゃねえ。でも、その分練習するだけだ。」 「…そーかよ。」 先に話していた先輩方が去る音が聞こえる。よかった、と思った矢先、突然倉庫の扉が開いた。開けたのは、 「よお。」 「…気づいていたんですか。」 「ああ。」 宮地裕也先輩とは、宮地先輩のようにみゆみゆという共通点もなくあまり関わったことがない。今までした会話は全部選手とマネージャーとしてのものだ。こうした一対一は初めてである。 「先輩はどうしてここに?」 「タイマーとりにきたんだよ。とってくんね?」 「あ、はい。」 倉庫の隅にあるタイマーをとって渡すと、先輩はサンキュと言ってそれを受け取る。 「お前、さっきの話聞いてたんだろ?」 「…聞いてたっていうか聞こえてたっていうか。」 「なんでそんな顔してんだよ。」 「…顔?」 「自分が悪く言われたみたいな顔してる。」 「まじすか。」 高尾くんとは仲がいいしそりゃあ悪く言われるのはつらい。でも、そんな指摘されるほどの顔をしているとは。 「言いたい奴には言わせときゃいーんだよ。」 「…はい。」 宮地先輩ほどではないとはいえ、私の中では宮地裕也先輩もかなり怖い部類に入っていた。 だけど、どうやら、そんなことはなかったみたいだ。 「だからいちいちそんな顔すんな。」 「先輩、意外と優しいんですね。」 「あ?意外とってなんだよ。」 「褒めてます。」 「うっせ。」 そう言って私のおでこに拳をぶつけてくる。でも、痛くはなかった。 ← → 戻る |