この両手に握れるだけの幸せ


仮入部期間が終わり入部提出の期限の翌日である今日、改めて新入生が集められ並ばされた。
約30人。新たなバスケ部員である。

大坪主将の促しにより、右の人から名前と出身中、希望ポジションを言っていく。

「緑間真太郎、帝光中学校出身。ポジションはシューティングガード。」

瞬間、空気が変わった。ふむ、やっぱり真ちゃんは有名人だ。先輩や同級生たちの中には真ちゃんを睨んでいる人もいる。
マネージャーの仕事中は、真ちゃんを見ることはなかなか出来ず、仮入部期間に真ちゃんの周りでなにが起きたのか分からない。しかし、この様子だとまたずいぶんと敵を作ったのだろう。真ちゃんは対人関係に基本興味を持たず、特にバスケ関係ではその才能のせいも相まってよく恨まれる。

自己紹介を終え、練習が始まった。私も私でやるべきことをする。

「なあ、お前大丈夫か。」

外にある水道で大量のタオルを洗っていると、声をかけられた。坊主の人だ。たしかこの人はレギュラーの…

「えっと…。」

「木村だ。」

「あっ、すみません。」

「構わねえよ。人数多いから覚えんのも大変だろ。あ、これ一緒に洗っといてくれ。」

そう言ってタオルを渡される。なるほど、なにをしに来たのだろうと思ったけどタオルか。
それにしても、

「大丈夫かって、なにがですか?」

「あー…その、宮地だよ。」

「ああ。」

理解した。木村さんは私のことを心配してくれてるみたいだ。え、ちょ、見た目ちょっと怖いなとか思ってたけどいい人じゃないかこの人。

「あいつ言い方キツいだろ?女子からしたらやばいんじゃねえの。ああいう言い方。」

「うーん、確かに辛い時もありますけど、でも、真ちゃんが居るからなんとか平気ですね。」

「あー……。」

木村さんは瞬間遠い目をする。ちなみに仮入部期間で、私はいつも通り真ちゃんに好き好きアピールをした。むしろいつもより多めにした。もちろんアピールは練習後にしている。
そのかい(?)あってか、私の真ちゃんloveは割と早い段階でバスケ部に知れ渡った。真ちゃんは恥なのだよ、と額を手でおおっていたが私にとっては万々歳である。むしろ公認カップルぐらいを目指している。

「なんか、うん、やっぱお前大丈夫そうだな。」

「はい!」

「まあ、マネージャーはいてくれたら助かるし、うん、頑張れ。」

うおおおおお木村さんいい人すぎて叫ぶわ。優しい言葉をかけられるなんていつぶりだろうか。
真ちゃんはツンデレ発揮する以外普通に暴言だし宮地先輩は発する言葉すべての語尾に暴言だ。要するに私は、男の人からの優しい言葉を聞く機会が少ない。木村さんの優しさは貴重で新鮮なのだ。大切に噛み締めよう。

すると、体育館からとてつもない怒鳴り声が聞こえた。

嫌な予感がする。



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