君のためならわたしは


※虫注意

信じらんねえ。なにがって、真ちゃんの行動。それと名字ちゃん。

まず、名字ちゃんを部屋に押し込んだ真ちゃんを見て、言葉を失った。男から見てもゴキブリの大群はキモイ。女の子ならなおさらだろう。なのに真ちゃんは、名字ちゃんを部屋にぶち込んだ。
思わずこの行動には全員で真ちゃんを責めた。仮にもお前のことを好いてる子にそんなことすんのかよと。

だけど、

「とりあえず目に見えてる分は全部殺しました!あとは、放課後、ホームセンターでバルサン買ってきますね。壁も拭いときます。」

これはおかしいだろ。

名字ちゃんが部屋に押し込まれてからわずか数十秒。扉がバーンと開いて笑顔の名字ちゃんが出てきた。開きっぱなしの扉に対して、俺たちはゴキブリが出てくるんじゃないかと警戒する。

しかし、部室を覗いてみてもゴキブリの姿はどこにもなかった。しかし何故か、壁には黒い染みが無数にある。そして名字ちゃんの手には、ぐしゃぐしゃの新聞紙が入ったビニール袋が握られていた。真ちゃんは何故かドヤ顔だ。いや、なんでだよ。

そんな2人の様子を、部員は全員ポカンとした顔で見ていた。堪らず宮地サンが口を開く。

「…お前、平気なのかよ。」

「ゴキブリですか?全然平気じゃないですね!超気持ち悪かったです。」

「じゃあなんで、」

すると名字ちゃんは、突然今まで浮かべてた笑みを消してふっと真顔になる。これはもしかして、なにやら深い事情があるとかいうやつじゃ…。

いいですか宮地先輩、と名字ちゃんは続けた。

「私には、目指しているものがあるんです。」

「?」

「それは、パーフェクトガール!」

「…は!?」

名字ちゃんはグッと拳を握り締めた。

「私は、真ちゃんのためになんでも出来る女の子になりたいんです!」

「…はあ。」

「だから、虫でもなんでも倒せるように訓練してきたんですよ!ね?真ちゃん。」

「ああ、名字に死角などない。」

真ちゃんはそう言って、名字ちゃんを満更でもなさそうな顔で見つめていた。
俺はそんな2人を見て、脱力するのを感じる。

…なんだよこの状況。てか死角ってなんだよ。

「だから、例え気持ち悪くても、真ちゃんが使う更衣室を綺麗にするためなら、私はいくらでも戦えます!」

…とりあえず、名字ちゃんが真ちゃんのために人事を尽くしてるということだけ分かった。
今更だけど。


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