「もうやばかったですほんと。」 「ああやばかったほんと。」 宮地先輩は顔を抑えながらそう言った。私も同じポーズをしている。 今はコンサートの帰り道。私と宮地先輩は電車の中で余韻に浸っていた。コンサートは本当に素晴らしかった。みゆみゆの可愛らしさと愛くるしさも本当に素晴らしかった。 「みゆみゆ本当天使過ぎて直視できない…。」 「俺もそろそろできねえ…。」 「いつもコンサートとか一人だったんで、今回宮地先輩がいてくれてよかったです。この気持ちを共有できて。」 「俺も。次は握手会行こうぜ。」 「勿論です。」 宮地先輩が熱い目で手を差し出してきたので私はそれを握り返す。確実に今、私たちの間ではみゆみゆを通じた友情が芽生えていた。 私の中からはもう宮地先輩への恐怖心は消えていた。あるのは同じ興奮を共有したことによる仲間意識だけだ。みゆみゆ様様だ。本当に素晴らしい。 「てか、お前緑間一筋かと思ってたけど意外とわかってんな。」 「みゆみゆは天使で真ちゃんは旦那ですから。」 「うわ…。」 旦那って、とさっきまでの空気とは一変、宮地先輩はすごい引いた目でこちらを見てくる。 いやいや、コンサートでの宮地先輩のオタゲーもなかなかうわ…でしたよ、と言いたいが言ったら轢かれそうので黙る。宮地先輩のオタゲーは勢いとキレとクオリティが凄かった。凄すぎて引いた。 ただ、みゆみゆ愛はすごく伝わってきたので、もちろん同時に尊敬もしている。 「あ、やべ。親からメールきてた。」 そう言って宮地先輩は携帯をチェックしだす。そういえば部活が終わってから今まで携帯を確認していない。 私も宮地先輩にならってメールを確認した。ホーム画面のアイコンには新着メールが1件と出ている。 『名字ちゃんヘルプ!真ちゃんの機嫌がやばい。』 「…?」 それは高尾くんからだった。 メールの画面を宮地先輩に見せてみると先輩も首を傾げる。 「お前なんかしたの?」 「いや…。」 「なんか部活終わったあと緑間と揉めてなかったか。」 「どこに行くかは聞かれたけど、揉めてはないですね。」 真ちゃんとの付き合いはもうだいぶと長いので、真ちゃんが拗ねていたり嫉妬していたらすぐに分かる。でも、今日の真ちゃんの表情はどちらでもなくて、見たことのない表情だった。怒っているわけでもなさそうだったし、揉めたとは言わないだろう。 「高尾はヘルプとか言ってるけどお前どーすんの。」 緑間の機嫌悪くて明日の部活に影響出たらうざいんだけど、と宮地先輩は続ける。確かにその通りだ。 「家近いんで、帰ったら一回真ちゃんのとこ寄ってみます。」 「頼むわ。」 とりあえず会ってみないことにはなにもわからない。 私は真ちゃんに家に行く旨を伝えるメールを送った。 ← → 戻る |