はじめの一歩は笑ってとんで


「さあ、はじめるよ!」

「おう!」

「ああ。」

高尾くんは元気良く返事をした。真ちゃんも神妙な顔で頷く。
ここは私の家。私が考えた、真ちゃんの料理の腕をどうにかする方法。それは、来週の調理実習と同じメニューを作って、真ちゃんにでも出来そうな作業工程を見つけようというものだ。つまり予習。高尾くんは、真ちゃんの出来る作業工程を覚えて、本番で真ちゃんにそれしかやらさないよう配慮する係だ。
本当は予習で一通り作れるようになるべきだろう。しかし真ちゃんの料理技術は、1回の予習でどうにかなるほど生易しいものじゃない。そのへんに関してはもう諦めている。

今日は体育館整備の関係でいつもより部活が1時間終わるのが早かった。なので高尾くんを誘い、帰り道にスーパーで必要な食材を買ってきた。うちの親は共働きだ。そして今日は2人とも残業なので家にはいない。ナイスタイミングというやつである。

「つか、名字ちゃんさ。親いないのに男連れ込んでいけんの?」

ニヤリ、高尾くんは悪戯っ子のような顔で笑った。

「うん。だって、私、真ちゃんになら…何されてもいいもん……。きゃっ。」

頬に手をあててそう言うと真ちゃんは心底不愉快という顔をしていた。

「俺は?」

「私と真ちゃんの愛を端っこで見てて。」

「切ねえ!」

「さあ手を出して真ちゃん!」

「お前になど何もしねーのだよ。」

いいからさっさとするぞ、と真ちゃんはピシャリと言い放った。やだなもう真ちゃんってば冷たいんだから襲ってくれてもいいのに。ウエルカム真ちゃん。

真ちゃんと高尾くんにキッチンに入るように促し買ってきた食材を広げる。生ものは冷蔵庫にいれた。来週の調理実習のメニューはオムライスである。オムライスなら普通に作れるし充分2人をサポート出来るだろう。

「じゃあ2人とも手洗ってエプロンつけて。」

私は家庭科の時間に配られたオムライスの作り方の紙を見る。おそらく調理実習はこれに書かれている順番で調理が行われるだろうから、これに沿っていこうと思う。

「まずご飯を炊くから、お米をとごう。」

「真ちゃんが米といでみてよ。真ちゃんの練習だし。」

「そだね。やってみよう真ちゃん。はい腕まくってー。」

「うむ…。」

真ちゃんはそう言って固い表情で腕をまくった。
真ちゃんは自覚のある料理下手だ。今日の調理実習でも反省したことがたくさんあるのだろう。来週の調理実習に向けて必死に人事を尽くそうとする真ちゃんは、私の指示に大人しく従っている。こんな素直な真ちゃんはレアだ。料理の指示の中にさりげなく、はいここで私を抱きしめてとか言ってみようかな。いや、包丁があるから危ないな、やめておこう。刺されそうだ。

「おい、米が全部流れたぞ。」

「あああああ何してるの真ちゃん!」

…前途多難すぎる。


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