少しの希望を縫いとめよう



「なんか2人ともご飯少なくない?」

夢のような二人乗りから数日たった今日。真ちゃんと高尾くんのお昼ご飯の量がいつもより少なかった。2人とも食べ盛りだろうにお腹が空かないのだろうか。

「次の時間は、調理実習なのだよ。」

「俺と真ちゃん同じ班なんだぜ、いーだろ名字ちゃん。」

「……………やばい。」

「へ?」

高尾くんは自慢そうに言っているがこれは決して私が羨ましがるようなことではない。やばい。真ちゃんが調理実習とか非常にやばい。うちのクラスでも来週行われるが確かメニューはハンバーグだった気がする。大変やばい。真ちゃんがハンバーグ?
うん、やばい、やばすぎる。

「真ちゃんに料理をさせちゃいけない。」

「あー、確かに真ちゃん不器用っぽいもんな。」

「不器用とかいうレベルじゃないよ。」

そう、決して不器用とかいうレベルではない。真ちゃんの料理の腕は壊滅的だ。中学の友達であるさつきちゃんもなかなかの腕前だったが、真ちゃんも負けず劣らずという感じだ。とにかくやばい。

「馬鹿にするな。人事は尽くす。」

「まあ真ちゃんもこう言ってるし?同じ班に女子もいるし別になんとかなるっしょ。」

高尾くん君はことの深刻さを分かっていないようだね。
確かに真ちゃんの人事の尽くし具合は大抵のことを可能とする。だが料理に限ってはいくら人事を尽くしてもどうにもならなかった。私は中学の調理実習で、嫌と言うほどその現実を目の当たりにしてきた。本人はまだ諦めていないようだが料理に関してはもう諦めた方がいいと思う。何度も言うが、真ちゃんの料理の腕は最底辺だ。
しかし真ちゃんの料理技術の深刻さは言葉では信じてもらえないだろう。ここは残酷だが実際に体験してもらおうと思う。

「あ、やべ真ちゃん。そろそろ移動すんぞ。」

「ああ。」

「…頑張ってね。」

私はなんとも言えない顔で2人を見送った。…同じ班の子たちに幸あれ。



放課後、部活で顔を合わせた高尾くんは少しやつれていた。真ちゃんもなんだか微妙な顔をしている。この様子から見るにどうやら今回も真ちゃんの料理の腕が荒ぶったのだろう。
高尾くんは私を見つけるとスススとよってきた。顔が死んでいる。よっぽど大変な目にあったみたいだ。可哀想に。


「…真ちゃん、やばすぎたんだけど。」

「だから昼休みに言ったじゃん。」

「いや、確かにそうだけど、でもあそこまでとは思わなかったわ…。」

高尾くんが遠い目をする。私はそんな高尾くんに何があったか話すよう催促をした。高尾くんは重々しく口を開く。

「左手が傷つかねえように、包丁は使わせないでキャベツちぎらせたんだけどよ、」

「うん。」

「紙吹雪が出来てた…。」

「わあ細かい。」

「で、キャベツはとりあえずおいといて、ハンバーグを焼いてもらったんたんだけど、」

「なんでそんな難易度高いこと頼むのかな…。で、どうなったの。」

「ものの見事に全部炭になった。」

「悲劇すぎる。」

「つーか来週も調理実習あるよな…、」

もうフォローしきれねえよ俺、と高尾くんが頭を抱える。きっと同じ班の子たちが真ちゃんを責めて高尾くんはその仲裁に入ったのだろう。その光景がありありと浮かぶ。ご愁傷様というやつだ。

うん、やはり、このまま真ちゃんをもう一度調理実習に放り込むわけにはいかない。どうにかしないと、きっと高尾くんがストレスで死んでしまう。

私は、高尾くんの肩を優しく叩いた。


「私に任せて高尾くん。考えがある。」


仕方ない、ここは私が一肌脱ごうではないか。


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