何回おもえば気が済むの


目の前にあるのは白紙の原稿用紙。
そして机を挟んでいるのは無表情の赤司。

…やらかしてしまった。



ことの始まりは、体育大会から数日たった今日の放課後。部活中に事件は起きた。

「は?灰崎またサボリ?」

「そうみたい…。」

バスケ部には灰崎という男がいる。途中入部だがバスケの能力が優れており、1軍で赤司や他のカラフルなメンバーと共に期待されている選手だ。
ただ灰崎にはいくつか難がある。まず、あまり練習で本気を出さない。そのうえよくサボる。そして素行が悪くよく喧嘩をする。

私はそんな灰崎のことが嫌いだった。もちろんマネージャーとして態度には出さないが、練習中の不真面目な態度には本当にキレそうになる。ただ、いつも私が切れる前に虹村先輩がブチ切れて灰崎をシメるので、私はなんとか平静を保てていた。
虹村先輩は強いうえに正義感に溢れていてバスケにも真摯で、私の尊敬する先輩の一人だ。次期主将候補にあがっているらしいが、是非とも全力で推させていただきたい。

話がそれた。灰崎は今日、部活に来ていなかった。そう、サボリだ。

「どうする?」

「私が探すよ。さつきちゃん、主将に今度の試合相手のデータまとめるの頼まれてたでしょ?」

「うん、じゃあお願いするね。」

こういう時、灰崎を探すのはマネージャーの役目だ。今日は3年の先輩マネージャーは進路相談のため来るのか少し遅れる。さつきちゃんには特別に仕事があるし、私が探すことにした。

これがいけなかった。

灰崎はすぐに見つかった。裏庭で昼寝をしていたので私は声をかけて起こす。灰崎は体を起こさずに目だけを開けてこちらを見た。ちゃんと起きろ。

「…あ?なんだよてめえ。」

凄みのきいた低音で灰崎はこちらを睨んでくる。だがそんな態度でビビる私ではない。てか、なんだよじゃねえよてめえこそなんだよ。そう言いたいのをぐっと堪える。
ビキッと言う音が脳内で響いたが私は笑顔を保った。うん、だいぶ感情を操れるようになったんじゃないだろうか。確実に私は成長している、よし。

「部活始まってるから早く来て。」

「はあ?見てわかんねえの、俺今日休むから。」

「じゃあちゃんと主将に連絡して。」

「めんどくせえ、お前言っといて。」

「嫌。大体灰崎サボりすぎだし、さっさと行くよ。」

「うっざ。」

「ほら、」

こう言って寝転んだ状態の灰崎に手をさし伸ばせば、思いっきり叩かれて払われた。

…はあ?

何かがキレる音がした。




「…反省文5枚、それがお前の罰だ。」

赤司は相変わらずの無表情のまま呟いた。私はそれに対して頷くことしかできない。

手を叩かれた後、私は反射的に灰崎を蹴り飛ばした。灰崎は一瞬ポカンという顔をしていたが、すぐに怒った表情に変わり私を一発殴った。
心の底で、あ、こいつも私と同じでキレやすい奴なんだなと思ったが、殴られたからには止まらなかった。結局、騒ぎを聞きつけた虹村先輩と赤司が来るまで、私と灰崎は殴りあっていた。

私と灰崎はそれぞれ赤司と虹村先輩に取り押さえられ部室に連行され、事の次第を聞いた監督にキツく説教をされた。その後解放されて、いつも通りに部活は行われた。
どうやら今回のことは部員には秘密にするらしい。監督には誰にも言うなと口止めをされた。腕のあざや頬の湿布などをさつきちゃんに追求されたが、転んだということにした。灰崎はよく喧嘩で傷を作っているので、怪我については誰にもなにも言われていなかった。

こうして普段と同じように部活は終わり、私は赤司に呼び出された。そして空き教室の机に座らされ、反省文を書くように促されて今に至る。灰崎も虹村先輩に引きずるようにしてどこかに連れていかれていたので、恐らく別の部屋で同じように罰を受けているのだろう。

私はシャーペンを持ち原稿用紙に文字を書き始めた。反省の言葉を書くに連れて、不甲斐ない気持ちで胸がいっぱいになる。
なにが成長しているだよ、結局私はなにも成長していない。よりによって選手を殴るなんてマネージャー失格だ。最低。
悶々として項垂れていると赤司が口を開いた。

「名字、」

「……なに。」

「お前の性格のことを、監督と虹村先輩に伝えた。」

「……!」

先に手を出したのは私だ。その点では灰崎より私の方に非がある。きっと、こんな厄介な奴は部にとって邪魔だろう。私の性格を伝えたということは、それはきっと、

「…分かってるよ。」

「…。」

「退部、だよね。」


そういうことだろう。


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