甘い甘いやさしい期待


「投票の結果、執事とメイドカフェになりました」

教卓で文化委員の子がそう言う。教室が少し沸いた。

今はホームルームで、文化祭の出し物を決めていた。クラスのみんなが色々案を出して投票で選ぶ。選ばれたのが執事とメイドカフェだった。

やったぁ、と誰かが言う声が聞こえた。執事とメイドカフェはダントツ人気で選ばれた。理由はおそらく黄瀬だ。女子の視線が黄瀬に注がれている。黄瀬くんの執事姿が見たい、と内心思っているのだろう。
かくいう私も同じ理由で執事とメイドカフェに投票した。黄瀬の執事姿見てみたいよね、わかる。

「じゃあ次は担当を決めていきます」

文化委員の子が黒板に文字を書いていく。執事、メイド、衣装、調理、教室の飾り付けやデザイン、とあった。去年の文化祭で私は小道具役だった。衣装を作るのは楽しかったし、今年も衣装を作りたい気持ちがある。

執事やりたい人〜、という声に合わせて男子が騒ぎながら手を挙げた。お前やれよ、一緒にやろうぜ、と笑いあっている。運動部同士はノリが良くて楽しそうだ。
メイド役もすんなり決まった。良かった。やりたい人が少なくてジャンケンで決めるとかだったら嫌だなと内心心配していたけど、そんなことにはならなかった。

じゃあ次衣装、と言われて私は手を挙げた。しかし予想より手の上がる数が多くて、思わず下げてしまった。驚いた。みんな衣装作りたいんだな。いいの?と文化委員の子に聞かれたから大丈夫と返した。じゃんけんで決めるぐらいなら他の役で良い。正直メイド役じゃなければまあ何でも良かった。

結局、私は調理になった。

文化委員の指示で各担当ごとに集まって話し合いをする。今日はメニューについて話し合った。調理役には紫原もいて、作りたいものというか食べたいものを次々にあげていた。
そう言えば去年、紫原と緑間は焼きそばを作って売っていたな。紫原の作る焼きそばがめちゃくちゃ美味しかったのを覚えている。調理役、適任じゃん。

チャイムが鳴った。

「じゃあ今日はここまで」

続きは来週のホームルームで、と調理担当のリーダーになった子が言った。はーいと答えて解散する。

「今日の練習なんだっけ〜?」

荷物をまとめて部活に行こうと思ったら紫原に声をかけられた。練習メニューを伝えると、紫原はげっと顔を顰めた。

「だるいやつじゃん、めんどー」

「見てる側からしたらどのメニューもしんどそうだけど」

なんとなく、流れで紫原と教室を出た。ここで解散するのも変なので一緒に体育館まで行くことにする。

「紫原って去年の文化祭でも調理してなかったっけ?」

「よく覚えてんね」

「紫原が作った焼きそば美味しかったからさ」

ありがとー、と紫原は答えた。それにしても、こうして横に並んでいると紫原の背の高さを実感する。目を合わせて話そうと思うと、かなり上を見上げないといけない。首を痛めそうだ。私は早々に目を合わせて話すのを諦めて、正面を向くことにした。歩きながら話すならこのぐらいがちょうど良い。

「作る役になるとつまみ食い出来るんだよね〜」

「そうなんだ」

去年もずっと焼きそば食べてたなぁ、と紫原は続けた。つまみ食いをする紫原は想像に容易くて少し笑ってしまった。

「今年は甘いものがいっぱい食べれそうで楽しみ〜」

紫原は嬉しそうに言った。紫原がメニュー候補に挙げていたのはお菓子やケーキばかりだった。やっぱり自分で食べたいものを選んで言ったんだな。

「ホームルームで試作したら部活前に食べれるしね」

「うわ、ちょ〜いいじゃんそれ」

紫原は最近部活での調子がとても良い。側から見ていてもバスケのレベルがとんでもなく上がっているのがわかる。そしてそれに比例するように、部活後に食べるお菓子の量が増えている、とこの間赤司が困ったように言っていた。これだけ体が大きくて活動量も多かったらそりゃお腹も空くよなあと他人事のように思った。

「はやく試作になんないかな〜」

紫原は上機嫌で呟く。私も紫原が作るお菓子を食べられると思ったら少し楽しみになってきた。


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