笑顔をこの眼に焼きつけた


花火大会が終わった後、私と赤司の関係は特に変わらなかった。花火大会の帰り道ではいつも通りの雑談しかしなかったし、次の日からも何もなしだ。

そもそも変わらなかったというか、変える暇なんてなかった。全中が開幕したからだ。



『それではこれより全国中学校バスケットボール大会を開催します』

全中の会場には去年も来た。それでも人の多さには驚かされる。ここにいる人は全員バスケが上手いんだと思うと不思議な気持ちになった。

開会式を見届けて、ふと赤司を見ると複数の人に囲まれていた。なんだなんだと思い覗き見したら、なんとインタビューを受けていた。インタビューの内容をこっそり聞いてみたけど、全部の質問に落ち着いて答えていてすごかった。赤司って緊張しないのかな。
その日は他の部員やさつきちゃんもインタビューをされていた。なんなら私もちょっとだけインタビューを受けた。緊張してうまく話せなかった。



全中もいよいよ最終日、四日目になった。帝光中バスケ部は順調に勝ち上がっていた。

「(みんな強いな…)」

私は、毎日のように帝光バスケ部の練習を見ている。見慣れて感覚が麻痺していたけど、うちのチームのプレイは他のチームよりもずっと上手くてずっと凄かった。相手選手を圧倒するプレイを見て、強いなという感想が他人事のように出てきた。

準決勝に勝利して決勝が決まった瞬間。ブザーが鳴ったと同時にコート上の赤司と目があった。赤司は私の方を流し目で見て、結構しっかり目があった。なんだろう?と思ったけどすぐに観客先からの歓声が聞こえて思考がかき消された。

あと一勝すればうちは二連覇だ。今日は準決勝だけじゃなくて決勝も行われる。最初から思っていたけど一日二試合というのはなかなか酷だ。マネージャーは、コートから出た選手たちにタオルやドリンクを渡すために駆けまわった。

「お疲れ様」

「ああ」

赤司がこっちに来たのでタオルとドリンクを渡す。赤司は顔に流れる汗をタオルで拭っていた。そんな赤司をずっと見ているわけにもいかず、私は他の選手にも色々と手渡していく。

しばらくして監督から招集がかかり、選手たちは行ってしまった。私たちマネージャーは後片付けをする。

そういえば赤司と久しぶりに話をしたな。全中が始まってからは一緒に帰っていないし、邪魔をしてはいけないと思ってあまり話しかけないようにしていた。当たり前だけど、優勝を目指す赤司に対して、私から気軽に話すのは避けていた。

「私トイレ行ってきます」

「はーい」

決勝戦が始まるまでまだ時間があった。今のうちにトイレを済ませておこうと思い、先輩マネージャーに声をかけてその場を離れる。この会場無駄に広いからトイレまでが遠くて厄介だ。



「あ、」

赤司がいる。

用を足して帰る最中、赤司を見かけた。記者らしき大人と何か話している。また取材でもされているんだろうか。すごいな、大人気だな。
すると赤司が私を見た。かと思うと赤司は記者の人に一言二言何かを言って話を終わらせて、こっちに歩いてきた。

「やあ」

「あれ、取材は? もういいの?」

「ちょうど話が終わったんだ」

一緒に戻ろうか、と言われて二人肩を並べて歩く。

「ついに決勝だね」

「そうだな。あとは勝つのみだ」

「緊張する?」

「最初は少しプレッシャーを感じたが、今は特にない」

「すご…」

聞きましたか皆さん。全国大会の決勝で緊張しない人間がここにいます。これぞ赤司。

「名字が見てくれているしね」

「おお…」

そしてさらっととんでもないことを言います。これぞ赤司。私が記者なら今この瞬間インタビューしに来るわ。

「そういえば、さっきの試合が終わったあと私のこと見た?」

「ばれていたのか」

もしかしたら気のせいかと思ったけどそうではなかった。なんで? と聞くと、赤司は手を顎に当てて少しの間黙った。

「……なんとなくだな」

「なんとなく…?」

「なんとなく、名字の顔が気になった」

「そんなことある?」

いや、なにその理由? 試合に勝った瞬間のあのタイミングで私の表情が気になることある? もっと他に気になることあるだろ。

「何故だろう?」

「私に聞かれてもなんだけど…」

不思議そうに首を捻る赤司を見て私も首を捻るしかなかった。そうこう言っていると決勝戦の集合場所についた。じゃあ頑張って、と言って赤司と別れる。決勝戦直前にする会話がこんなよくわからない会話で良いんだろうか。



「勝ったのは帝光!! そして全中二連覇達成ー!!」

決勝戦は、途中青峰の不調や相手からのファールと色々あったけれども、無事に帝光中の勝利で終えた。二連覇達成だ。勝った瞬間隣にいたさつきちゃんに抱きつかれて、思わず私も抱きつき返した。

やったー!と黄瀬が喜んでいる声が聞こえる。コートを見れば、また赤司と目があった。赤司は私の顔をめちゃくちゃ見つめていた。

なんでこのタイミングでも私の顔が気になるんだよ…。


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