あと少しだけ望んで


予選を無事に通過して、夏休みに入った。夏といえば、海やお祭りなどたくさんのイベントが思い浮かぶが私たちには全く関係ない。毎日部活、部活、部活。そして家に帰ったら大量の宿題。去年も感じたけど多分学校があるほうが楽なんじゃないかと個人的に思っている。とにかく毎日大変だ。マネージャーの私ですらこう思うんだから選手は余計に大変なのだろう。そう思っていたんだけど、

「お祭り行きたいっす! お祭り!」

部活終わりに、黄瀬が青峰に対してそう言っているのが聞こえた。そこにさつきちゃんも入って行き、よく見れば黒子もその輪にいた。お祭り、そう言えば毎年近くであるお祭りって今日あるんだっけ。今から行くってことなのかな。げ、元気だなあ…。
そんなことを考えていたらさつきちゃんと目があった。かと思えばこっちに向かって小走りで駆けてくる。可愛い。

「名前ちゃんもお祭り一緒に行かない!?」

「あーうん。お誘いは嬉しいけどやめとくね」

「えっ、なんで?」

「体調あんま良くなくてさー」

あはは、と笑って言えばさつきちゃんは残念そうにそっか、と呟いた。そんなさつきちゃんに心苦しく思いながらもごめんねと謝る。ごめんねさつきちゃん。

別に体調は悪くはないけど、お祭りに行きたくないの。



「調子が悪いのか?」

夕方。今日は重要な職員会議があるとかなんとかで居残り連は禁止されている。まだしっかり日の残ってる中、私は赤司と一緒に歩いていた。夕方とは言え真夏。暑くて汗が止まらない。

「あーうん、そう、夏バテ」

一瞬、調子について聞いてくるのか分からなかったが、さつきちゃんにさっき言ったことを指しているのだと察する。赤司は地獄耳だからな。聞こえていたんだろう。

「そうか」

夏バテ、嘘はついてない。実際最近暑くて食欲がないしなにをしてもすぐに疲れてしまう。

「残念だよ」

「なにが?」

「もし名字が元気なら、祭りに誘おうと思ったんだけどね」

驚いた。意外だな、赤司ってお祭りに興味持つんだ。
残念だ、と顎に手を当て赤司はそう続ける。
あの日から、赤司の様子に特段おかしいところはなかった。いつもしているような会話をして、いつも通り一緒に帰る。

「…まあ元気でも、お祭りに行くことはないかな」

「どうしてだい?」

さつきちゃんには理由を言わなかったけど、赤司になら言っても良いかなと思った。

「私人酔いしやすくてさ」

「へえ」

「夏の人混みですぐ気分悪くなるの」

「そうなのか」

じゃあ仕方ないな、と赤司は呟いた。

人混みは苦手だ。狭いし苦しいし、思うように身動きが取れないし。ましてや夏のお祭りなんてそれに暑さも加わるんだから絶対に行きたくない。そりゃ行ったら楽しいのかもしれないけど、それ以上に行きたくないという気持ちが強い。

その後、お祭りの話をすることはなく違う話をしなから帰った。



夜になり、もう寝るかと思ったその時、メールの着信音が聞こえた。

「ん…? 赤司?」

開いてすぐ見えたのは赤司という名前。メールなんてどうしたんだろう。部活のことかな。


『来週にある花火大会の観覧席をとった
ここでなら広々と観ることが出来るぞ』


変な声が出た。


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