想いを残して消えるのは


いよいよ全中の予選が始まった。

「すごいことするね、赤司」

初戦が行われた次の日。言うかどうか悩んだけど私はとあることを赤司に聞くことに決めた。
私の発言に対して赤司はなんのことだい? と綺麗な顔のまま小首を傾げる。なんだその顔。どうせ、なんのことかはわかってるくせに。

「一人20点のノルマだよ」

何回だって言うけど私はただのマネージャーだ。部活内でキャプテンである赤司が決めたことに対して何も言う権利はない。それでも、今こうやって一緒に帰ってる間は部活云々の前に友達という関係なのだ。意見なんて出来ないけど、聞くぐらいなら良いだろう。多分。

「青峰の士気に問題があってね」

「うん」

私は青峰と仲が良いわけではない。青峰はめちゃくちゃバスケが上手いプレーヤーであり、さつきちゃんの幼馴染という認識だ。それでも、なんとなく分かってた。青峰が最近、昔ほど楽しんで部活をしていないということは。強すぎるんだよなあ。

「今はまだ予選だ。これからずっとあんな状態だと困るんだよ」

言葉とは裏腹に全く困っていないというような顔で赤司はそう言う。どうせ赤司のことだから、対処法とかこれからどうするかとか、全部お見通しなんだろうな。普通ならキャプテンという責任もあって悩んだり苦しんだりするだろうに、赤司からはそんな気配を全く感じなかった。もしかしたら見せてないだけかもしれないんだけど。

「そうなんだ、大変だね」

信号が赤になった。夏とはいえ結構遅い時間で日も暮れ始めている。あたりは夕日の光で橙に染まっていた。私は近くの電柱にもたれかかって赤司の方を見つめる。
私は以前赤司に言われた言葉を思い出した。遠まきにしないでほしい、確かにそう言われたのだ。赤司のことだからどうせ平気、と思うのも本当は良くないんだろう。

「…」

赤司は私の言葉に対して何も言わなかった。沈黙が何故か少し気まずくて、私は意味もなく鞄をいじってしまう。

「あ、飴いる?」

「…なんで入っているんだ」

前ポケットにたまたま友達にもらった飴玉が入っていた。イチゴ味の可愛い包みをした飴だ。

「まあもらっておこう」

はい、と差し出していると意外にも赤司は飴を受け取ってくれた。そのまま食べるかと思ったけど、食べることなく赤司はポケットに飴をしまう。まあ赤司は飴とはいえ食べ歩きとかしなさそう。

「疲れた時には甘いものだよ」

「そんなに疲れてはいないけどね」

「実感ないだけで実は疲れてるとかありそうじゃん」

「そうかな」

「そうだよ」

思い込みかもしれないけど赤司の表情はいつもの覇気がない。…ような気がする。疲れてるんだって、と念押しするように言えば赤司は少し俯いた。え? なに? 傷ついたとか? そうだとしたらごめんなさい。

「どうしたの?」

「…この機会だから、聞いておきたいことがある」

顔を上げることなく赤司はそう言った。嫌な予感がした。信号はまだ、変わらない。

「灰崎のことだ」

こういう時の嫌な予感って、なんで当たるんだろう。

「灰崎に関して、俺に何か言いたいことがあるなら今のうちに言っておけ」

強い言葉だと思った。赤司が顔を上げる。鋭い目をしていて、その目は夕日に反射して橙に輝いていた。今のうちにだ、と繰り返して赤司は言う。なんなの、その含みのある言い方。

「なにもないよ」

赤司の目が細められた。一瞬黄色に光って見える。その目には無性に既視感があった。

「嘘だ。お前は灰崎と仲が良かっただろう」

「まあそうだけど」

仲が良い、という言葉に肯定する返事を返せば赤司は少し驚いたように目を開いた。が、すぐに元の目に戻る。ああ、そういえば、ちゃんと言葉で仲が良いと人に言ったのは初めてかもしれない。

「部の決定に、仲が良いって理由だけで反対なんてしない」

信号が青になった。行こう、と赤司に言って横断歩道を渡った。私が一歩前に出るように歩いて後ろから赤司がついてくる。赤司はなにも言わなかった。
なんだろう、今日はなんか変だな赤司。いつもと様子が違う。私に灰崎のことを言ってくるなんて、普段ならそんなことしなさそうなのに。目も鋭いしこうやってなにも話さないのも珍しい。

「何か悩んでるの?」

「…なにもないさ」

赤司は取り繕ったように笑った。


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