「…賭けをしないか」 太鼓のゲームが終わった後、赤司がぼそりとそう言った。 「賭け?」 「ああ。大したことではないんだか、」 「うん」 バチを元あった場所に片付けながら、私は話を聞く。 「今回の試験の結果で名字が俺に負けたら、一つ頼みを聞いてくれないか」 「やだよ」 とっさに声が出た。赤司に試験で負けたら? ってそれほぼ負ける賭けになるじゃん。 「…なんでだ」 あまりにも即答したもんだから赤司がじとりとした目で見てくる。たしかに今回の試験は今までで一番自信がある。でもだからといって赤司に勝てるかと言われればそんな自信はない。 「赤司に勝てる気しないもん」 「緑間とずっと勉強していたんだろう」 「それでもだよ。もしかしたら緑間は赤司に勝てるかもしれないけど、私は多分無理」 「じゃあ緑間が俺に勝ったらでもいい」 「なにそれ」 思わず笑ってしまった。いや関係ない緑間を私たちの賭けに巻き込んでやるなよ。さすがに少し不憫だ。それにしても断ったけど意外と食い下がってくる。赤司がここまで、他人まで巻き込んで頼みごとをしてくるなんて一体なんなんだろう。 「ちなみに何を頼みたいの?」 「…それは勝ってから言う」 「ずるくない?」 生徒会に入るのは嫌だよ、と続ければそれは違うと返ってきた。 「まあ、いいよ」 乗るか乗らないか少し悩むが、まあ赤司と緑間の勝負と考えれば今回に関しては五分五分な気もするので、受けてみることにする。緑間と勉強してたから、少し緑間を贔屓目に見てしまっているのかもしれないけど。緑間、頑張れ、勝ってくれ。 「緑間が勝ったら私の頼みを聞いてくれるんだよね?」 「ああ。好きな額を言うといい」 「なんでお金の前提?」 そう言えば赤司は可笑しそうに笑った。楽しそうだなこいつ。 そして試験結果の発表日。私は何故か緑間と赤司と共にいた。理由は簡単、緑間に一緒に結果を見るのだよと呼び出され、しぶしぶ付いて行ったら赤司にも遭遇したからだ。てか緑間、わざわざ私の教室にまで来るな。ただでさえ目立つのに、今日はラッキーアイテムらしいでかい鈴を持ってるせいでチリンチリンうるさくて余計に目立っていた。てかなんだよその鈴。人の頭ぐらいの大きさじゃん。どこで売ってんだそれ。 「あ、紙貼ってる」 掲示場所に近づけば、白い大きな紙が貼っているのが見えた。が、まだ距離があり文字まではよく見えない。緑間も見えないらしく眉間にシワを寄せながらむむと声を漏らしていた。 「なるほど」 「え、赤司見えるの?」 「ああ」 「視力マサイ人じゃん」 「先行くぞ」 赤司はなんとこの距離でも見えるらしい。目良すぎない? 緑間は早歩きでさっさと歩いて行ってしまった。せっかちか。まあ、早く結果を見たい気持ちはわかる。私もそのあとを追うように小走りで向かった。 掲示板の前はまあまあの人だかりができていて。私は人の間をかき分けながらも紙の方へと向かった。チリンチリンと鈴の音がだんだん大きく聞こえてくる。緑間の居場所めちゃくちゃわかりやすいな。そんなことを考えていたら、紙の前で立ちすくむ緑間が目の前に現れた。 「…い、」 「い?」 「一点差なのだよ!!!」 緑間が大きな声で私にそう言う。それに合わせてチリンと鈴が鳴った。うるさい。 掲示された紙を見れば、一位赤司、二位緑間と書かれている。確かに、赤司と緑間の差は一点だった。うわ、惜しいな! 「くそ、あと少し足りなかったか…」 悔しそうに緑間は漏らした。一点差なら次頑張れば良いじゃん、と声をかけそうになったけど慌てて黙る。こういう時にそんな言葉かけられるの嫌がりそうだもんな緑間は。 そう言えば私の順位は、と思い見てみたら三位だった。緑間との差は二点。自己最高得点だった。 とりあえず邪魔になるので、立ちすくんでいる緑間の服を引っ張って人混みから脱出する。出た先では赤司が笑顔で立っていた。 「名前も緑間も今までで一番良いじゃないか、おめでとう」 「…次こそは負けん」 ギラギラとした目で緑間はそう言った。立ち直り早い。緑間って赤司に対しては妙に負けず嫌いだよな、なんでだろう。 俺は戻るのだよ、と言って緑間は去って行った。緑間は悔しそうだけど、私自身は内心喜んでいた。だって自己最高得点だし、嫌々とは言え緑間と勉強した効果がちゃんと出ていて嬉しかった。 「…さて、」 赤司が私の方をみて仕切り直すかのように口を開いた。 「頼みを聞いてもらおうか」 「あ、」 忘れていた。そういえば赤司と何故か緑間の結果で賭けをしていたんだった。今回は一点差で惜しいとはいえ私の負けだ。頼み事、結局赤司は教えてくれなかったけど一体何を言うんだろう。 「これから部活後、一緒に帰らないか」 「え?」 さらっと言う赤司に思わず聞き返してしまう。部活後、一緒に帰る? 「なんで?」 というのが私の正直な感想だった。 「嫌か?」 「別に嫌ではないけど」 「じゃあ良いだろ」 少し拗ねたように赤司は言う。そう、嫌ではない。今までも何度か一緒に帰っているし、別に赤司といるのは苦ではない。それは多分赤司も同じ気持ちだろう。でも、そこまでする? 私と赤司は友達だ。そこは間違いない。でも友達とは言え、同性ではなく異性が二人で帰るなんてしないんじゃないか。さつきちゃんと青峰みたいに幼馴染ならともかく、私と赤司はせいぜい去年のクラスメイトというだけだ。 「名字と一緒にいると楽しいんだ」 拗ねた顔は継続しながらも赤司は堂々とそう言い放つ。 「…そうなんだ」 それ、まるで、告白みたいだね。そう思ったけど言えなかった。 ← → 戻る |