きみがいればそれでいい


店員がパンチングマシンの音を聞いてやってきたのだが、私の顔を見てとても驚いた顔をしていた。

「暫定一位としてお名前を伺ってもいいですか?」

どうやらホワイトボードに私の名前を書きたいらしい。恥ずかしいから大丈夫です、と断ったのだが赤司が横から別に良いだろうと言ってくる。

「あ、じゃあ赤司って書いてください」

「やめろ」

すごい睨まれた。

しばらく赤司と書くか私の名前を書くかの攻防が続いたのだけど、結局折衷案で平仮名であかと書いてもらうことにした。赤司は渋々といった感じで了承してくれたけど、私の名前を書くのは本当に嫌なので許してほしい。



「私あれやりたい」

そのあとしばらくゲームセンターをぶらぶらしていると、私の目に止まったものがあった。

「なんだい、あれは?」

リズミカルな音楽とともに画面に赤と青の顔が流れている。手前には大きな太鼓が二つ並んでいて。そう、有名な太鼓のゲームだった。

「音楽に合わせて太鼓叩くやつ。私これ好きなんだよね」

「面白そうだな。やろうか」

私は昔、このゲームがとても好きだった。久しぶりにするのだが、難しいレベルなら十分にできる気がする。フルコンボは狙えないだろうけどね。
赤司もやろうと言ってくれたので百円玉をお互い一枚ずつ入れてゲームを始める。簡単に操作を説明しながらとりあえず赤司でも知ってそうな曲を選んだ。

『レベルを選ぶドン!』

画面のキャラクターが高い声でそう言う。

「レベル?」

「私が選んであげるよ」

この時を待っていた。そう、私は少し意地の悪いいたずらを思いついてしまったのである。
私は赤司から太鼓のバチを受け取って、太鼓の右側を連打。知っている人はわかるだろう、このゲームはかんたん、ふつう、むずかしいのレベルがあるのだが、こうすることにより裏メニューの鬼レベルが出てくるのだ。むずかしいよりさらに上の方とんでもないレベル。私はそれを選択して赤司に返した。

「鬼?」

「私も同じのにするから大丈夫だよ」

「そうなのか」

もちろん赤司だけにさせるのは不公平なので私も大人しく鬼を選ぶ。レベルを選んだので画面が切り替わり、音楽のイントロが流れ始めた。素直にバチを構える赤司を見て思わず笑いそうになった。大量に出てくる音符を見て赤司は一体どういう反応をするのだろう。楽しみで仕方なかった。



「…なんか」

「どうした」

「凄すぎて引いてるのはじめて」

「そんなにか」

赤司はけろりとした顔でそう言った。
画面では太鼓のキャラクターがフルコンボだドンと喜んでいる。そう、フルコンボ。つまりパーフェクト。赤司は一番難易度の高い鬼をはじめてにもかかわらずフルコンボしたのだ。
横で一緒に太鼓を叩いていたのだがなんていうか怖かった。赤司のバチさばきは本当にはじめてか?というぐらい半端なく、寸分の狂いもなく全ての流れてくる音符を叩き切った。本当に怖かった。人間って凄すぎるものを見ると怖くなってしまうんだなと頭のどこかで思ったぐらいだ。

「私も結構自信あったんだけど打ち砕かれたよ」

「名字もクリアできているじゃないか」

「いやフルコンボした人に言われても」

もう一ゲーム出来るので、赤司とそう喋りながら曲を選ぶ。それにしても赤司に出来ないことってあるのかな。まさかこのゲームまでこんな完璧に出来ると思わなかった。少し悔しい。
選んだ曲が流れ始める。レベルはさっきと同じでお互い鬼。

「…楽しいな」

フルコンボされて悔しいと思ったけど、赤司が本当に楽しそうにそう呟いたのでまあ良いかという気分になった。


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