ごまかしは苦手なんだよ


「…はあ」

「なんだ」

「なんで赤司に嘘をついてまであんたと一緒に居るんだろう」

「俺が赤司に勝つためなのだよ」

「私が赤司に勝つかもしれないじゃん」

「それはない」

「は?」

緑間にそう断言されて腹が立った。叩き割ってやろうかその眼鏡。
今は放課後、ここは部室。日誌を書くための机を二つ移動させて緑間と向かい合わせに座っている。そう、この間約束した緑間との勉強会が始まったのだ。だが開始早々帰りたいという気持ちがある。改めて考えるとなんなんだろうなこの状況。
目の前にいる緑間は、背筋良く座って黙々と問題集を解いていた。私も鞄から勉強道具を一式出して、勉強を始めることにする。とりあえずやるしかないもんな。




「……ねえここって、」

「この考え方を使ってみろ」

「ああ、なるほど」

わからない問題があったので緑間に声をかければ、私が全てを聞く前に答えが返ってきた。シャーペンの先で緑間は私の教科書の一部分をさす。そこを見れば、今聞いた問題に使えそうな公式が乗っていた。なるほど、これを使えば良いのか。

最初こそどうなるかと思ったけど、緑間との勉強会は意外と順調だった。お互いの会話もそこまでなく静かだし、緑間は頭の回転が早く、わからない問題を質問すればすぐに適切な答えをくれる。とてもありがたい。しかも難しい問題を聞けば一緒に考えてくれるという優しさまで見せてくれた。意外と優しい。

「…作戦をたてるか」

勉強会が始まって一時間。緑間がシャーペンを置き、私の顔を見た。私も手を止め緑間を見つめ返す。緑間は腕をくんで真面目な顔をしていた。

「ん? なに?」

「赤司を倒す作戦だ」

闇雲に勉強をするよりお互い指針をたてておく方が良いだろう、と緑間は続けた。作戦、と言われるとよくわからないが要はどうやって勉強にしていくかを具体的に決めようということなのだろう。多分。

「おそらく赤司はほとんど満点をとってくるはず」

「化け物だよね」

「お前はいつも、どういう問題で点数を落とすのだよ」

「うーん…」

今までの試験の点数を思い出す。赤司のおかげで点数は回数を重ねるごとに伸びてきた。しかし赤司みたいに満点をとることなんて出来なくて、いつも何問か落としてしまう。特に数学と理科だ。

「難しい計算問題で落とすことが多いかな」

「そうか」

「緑間は?」

「俺は暗記問題でミスをしてしまうことが多いのだよ」

「あー…」

悔しそうな顔でそう言う緑間に私は思わず頷いた。うちの中学の理科や社会の問題はなんというか、重箱の隅をつつくような問題をよく出してくる。緑間のいう暗記問題は、恐らくそういう問題をさしているんだろう。私もそういうところでよく落としてしまう。

「とりあえず細かいところまで覚えるしかないのかな」

「いや、方法が一つある」

「なに?」

「お前が俺に問題を出すのだよ」

「問題?」

そこからの緑間の言い分はこうだ。自分で試験を予想して勉強するのには限界がある。しかし第三者が出す問題なら自分が予想もしなかったことを知れて、より知識が深まるだろう、と。
なんで緑間とそんな友達同士でするようなことしないといけないんだ…とも思ったけど、たしかに緑間の言い分には一理ある。こういうのって問題を出す方にとっても勉強になるとか言うしな。

「いいよ、やろう」

「なるべく細かい問題を出せ」

「わかった」

「今までの出題傾向を踏まえた上でな」

「難しい」

「出来る限り、俺が覚えていなさそうなところを選ぶのだよ」

「注文多いな」

そのあとしばらく問題を出してみたが、緑間が当たり前のように全問正解するので悔しくてすぐ辞めた。



「緑間のところに行くのか」

こいつの勘の良さはなんだ。

放課後になり、昨日と同じように緑間と勉強するため部室に行こうとすれば声をかけられた。振り向けばそこには赤司がいて。腕を掴まれてこの台詞なわけだ。

「え?」

「一緒に勉強しているんだろう」

待ってなんで知ってるの。私赤司に対して一言も緑間とのこと言ってないんだけど。帰りもバラバラで帰ったし誰にも見られてないはずなのに。ちなみにバラバラで帰ったのは見られないようにとかじゃなくて下校時刻10分前になった瞬間、俺はもう帰るのだよと言って緑間があっという間に帰ったからである。いや一緒に帰りたいとかそんなこと全く思わないけどちょっとぐらい待つ姿勢見せろや。

「まあ、そうだけど」

もう知られてるんだったら赤司相手に誤魔化してもしょうがない。素直に言うことにする。赤司は相変わらず私の腕を掴んだままだった。ちょ、やめてくれないかな。二の腕にそんな自信がない。

「…最近、緑間と仲が良いみたいだね」

「それはない」

赤司の言葉に若干被せるようにして答えれば赤司は少し目を丸くした。そして私の腕から赤司の手が離れていく。
私と緑間が仲がいい? そうか? 確かに勉強に誘われた時は驚いたけど決して仲良くはない。一緒にいて腹立つことばかりだし。

「別にただの部員だし」

「俺もだろう」

「赤司は友達じゃん」

これには即答した。うん、赤司は確かに部員だけどそれ以上にちゃんと友達。初めて赤司のことを面と向かって友達と呼んだ時はどこか気恥ずかしかったが、今は自然にそう言えた。

「…そうか」

友達。その言葉に赤司は喜ぶかなと思ったけど何故か微妙な顔をされた。なんで? 思春期?


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