いつかは醒める嘘だとしても


事件が起きた。

「灰崎!」

裏庭に行けば灰崎がいた。慌てて駆け寄り声をかける。

「あんた、」

「あ? テツヤの次はお前かよ」

面倒くさそうに灰崎がいった。私はそれどころじゃない。部室で聞いてしまったのだ。

『灰崎って部活クビになったらしいよ』

それを聞いて私は先輩マネージャーに許可をもらい裏庭まで来たのだ。
この間、灰崎と話した時の意味深な言葉が頭に引っかかっていた。俺は、辞める気はないという言葉だ。つまり、灰崎は、辞めさせられた…。

「ねえ、部活辞めて良いの」

「いーんだよ別に」

心配して駆けつけたのに当の本人はこれだ。どこか投げやりすぎるようにも見える。

「部活中だろ? さっさと戻れや」

「ねえ、あんた」

「んだよ」

「辞めたの? 辞めさせられたの?」

「あー、どっちでも良いだろ」

後者だな、と思った。そして辞めさせたのは監督でもコーチでも虹村先輩でもない、赤司だろうとも思った。赤司なら、すると思う。

でも仮に、赤司が灰崎を辞めさせたからといって私に出来ることはなにもない。私は赤司と友達だ。そしてバスケ部のマネージャーだ。でもただそれだけなんだ。部活に口出ししたり決定に逆らったりするような力はない。

「一つだけ教えてやるよ」

「なに」

「赤司に入れこみすぎない方が良いぜ」

ほら。やっぱり赤司だった。

「お前は赤司のことが好きかもしれねーけどよ」

「そんなんじゃないって」

「へいへい」

灰崎は少し笑った。
私と灰崎の関係は悪くはなかったと思う。そりゃ出会いはいきなり喧嘩をしてっていうもので最悪だったけど、それから先はそれなりな関係だったはずだ。灰崎も、一年が終わるまではちゃんと部活に来てたし喧嘩も減った。でも、最近の灰崎は休みもサボりも多く、喧嘩の噂ばかりだ。

「まあお前らがどうなろうと良いわ」

「灰崎」

「じゃーな」

「…うん」

灰崎と私は決して友達じゃない。それでも、少しだけ寂しい気持ちになった。なんか嫌だなあ。



そして部活が終わり、なんと白金監督が部活に来た。今年もこの時期がやってきたか。部員達がめちゃくちゃしごかれる時期だ。

「今日から赤司がキャプテンだ」

そして、驚くべきことに赤司が主将になった。え、虹村先輩は? そう思ったけど部の決定には何も言えないので大人しく何も言わないでおく。さっきの灰崎のことを思い出す。私は、ただのマネージャーなのだからなにも言えない。

部活終わり。今日は鍵閉め当番だったので部室の鍵を占め鍵を返却して、正門へと向かう。そこには赤司がいた。なんとなくいる気がしたが、本当に居るとは。

「主将おめでとう、赤司」

「ありがとう」

夏に近づき、日が少しずつ伸びてきた。前までは真っ暗だった時間帯なのに今はまだほのかに明るい。
伏し目がちにそうお礼を言う赤司はいつもよりも大人びて見えた。

「生徒会もあって大変だね」

「まあ確かに忙しいけど、充実はしてるよ」

誰かさんが入ってくれたらなお良かったんだけどね、と言われてて慌てて目をそらす。
さっき赤司が大人びて見えるって言ったのは誰だよ。私だよ。全くそんなことは無かった。ジト目で見てくる赤司は全然年相応だった。まだ根に持ってるのかこいつは。

「……充実だなんて、そんなこと言えるの赤司だけだと思うよ」

私は咄嗟に話題を戻した。このまま生徒会に勧誘されたらたまったもんじゃないからだ。

「そうかな」

「そうだよ。どんだけ忙しくても、いろんな仕事を赤司は完璧にこなせちゃう」

「……名字は、そうは思わないでほしいな」

「え?」

「遠巻きに感じられているようで、少し寂しいんだ」

赤司がこんなことを言うとは。珍しい。それは少し弱音にも聞こえるがきっと弱音ではないのだろう。日が沈みだし、徐々にほの暗くなっていく。赤司は真っ直ぐに私の目を見ていた。

「名字は遠巻きにしないでくれたら嬉しいな」

「そんなことはしないよ」

即答した。即答しないと駄目だと思ったからだ。

「赤司は周りに見られてるほど大人じゃないし、むしろ子供っぽい時もあるし、」

「そこまで言えとは言ってない」

「ほらそういう所」

赤司がわかりやすくむくれるもんだから私は思わず少し笑ってしまう。そんな表情をみんなの前でもしたら、きっと遠巻きでは見られないのにね。

「まあ私と、あと紫原緑間はずっと今の感じだと思うよ」

「それなら良いな」

「……赤司さ、」

「なんだい」

灰崎のことを聞こうとした。けれどやめた。

「なんでもないよ」

聞いたらいけないような気がしたからだ。


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