体育大会は無事に終わった。 何が一番思い出深いかと言われれば紫原でも虹村先輩でも赤司でもなく、黄瀬だ。 黄瀬は騎馬戦の上に乗る役をしていたが、すごい量のハチマキを奪っていた。そのおかげかうちの団が騎馬戦では一位をとった。騎馬戦の上でハチマキをぶんどっていく黄瀬はめちゃくちゃかっこよかった。写真を撮るか悩んだけど恥ずかしかったからやめた。黄瀬の勇姿は心に刻んでいる。 もちろんリレーも格好良かった。アンカーだった黄瀬はバトンを受け取ってから三人ごぼう抜きして一位でゴールした。その瞬間、思わず叫びそうになったが何とかこらえた。もう本当に惚れそう。モデルの力を見せつけられたという感じだ。モデル強い…。 もう私、すっかり黄瀬のファンだな。女子がキャーキャー言うのもとてもよく分かる。 そしてそんな黄瀬だが、最近部活内では問題を起こしていた。 「お前が弱いだけだろ」 「なんっ、だと!」 「おいとめろ!」 灰崎が喧嘩を売って黄瀬がそれに応えようとするが、周りが慌てて止めに入る。この光景を見るのは何度目だろうか。 先程黄瀬が問題を起こしている、といったが語弊があるかもしれない。原因の半分以上は明らかに灰崎だ。 確かに灰崎と黄瀬は同じポジションで争うことになるし、性格も多分合っていない。でもなんで喧嘩を売るんだ。 「もういーわ、飽きた」 「おい! 灰崎!」 部員が黄瀬を止めている間に、灰崎がそう言い捨てて体育館を出ていった。 その瞬間、不安そうに黄瀬を見ていた先輩マネージャーの目線が一斉に私の方を向く。えっなに。 「あー、すまねえ名字、頼んで良いか」 虹村先輩に気まずそうに声をかけられて思い出した。そうだ、私灰崎のお目付け役だったんだ。最近灰崎がわりと真面目に部活に来てるもんだから忘れてた。 「わかりました」 キレてる灰崎のところに行くのはめんどくさい、とも思ったがわざわざ部員を行かせて練習を止めるわけにもいかない。すいません、灰崎見てきます、と伝えて私は灰崎の後を追った。 「なにしてんの」 灰崎は屋上にいた。裏庭に行ったが誰もいなかったので、屋上まで階段を登れば寝転んでいる灰崎がいたのだ。こいつの行き先裏庭か屋上がほとんどだからすぐ分かるんだよな。でも屋上は階段を上がるのがしんどいからやめて欲しい。疲れた。 私の声に反応して、灰崎は顔だけこちらを向く。 「あ? 来んなよブス」 「うるさいな」 灰崎は苛立った声でそう言った。今更ビビるわけもないので灰崎のそばまで歩いていき、横に腰掛ける。今はジャージなので昔みたいにパンツを見られる心配もない。灰崎はそのままそっぽを向いていて私の方を見ようとはしなかった。 「あんたこんなんじゃなかったじゃん」 灰崎の背中に私は話しかける。灰崎が喧嘩早いのは昔からだ。部活に来てるとはいえ、たまにサボるし他校の生徒と喧嘩したという噂だってたまに聞く。それでも最近の灰崎はおかしかった。主に、黄瀬が一軍に入ってから。 「部員相手に喧嘩なんてしたことないのに、なんで黄瀬だけあんな絡むの」 「なんかむかつくんだよ」 理由なんてねーよ、と灰崎は言った。あ、返事した。 「外で喧嘩するならまだしも、部活内はやめときな」 「あ? 指図すんな」 「親切心で言ってんの」 「いらねー」 はっ、と鼻で笑う灰崎。その顔はいつもより投げやりに見えた。なんだこいつ。なんで今日はこんな変な感じなんだ。 「こんなこと続けてると、そのうち退部させられるよ」 「時間の問題だろ」 「は?」 「俺今日はもう部活に戻んねえわ」 「ねえ、時間の問題ってどういうこと」 「キャプにそう伝えとけ」 私の質問は無視して灰崎は立ち上がった。時間の問題って、なに? こいつ退部させられようとしてんのか。 「あんた、部活辞める気なの」 「俺からは辞めねーよ」 俺からは。と灰崎は強調した。ますます意味がわからない。虹村先輩は確かに灰崎に厳しいけどそんな無理やり退部させるような人じゃないし、監督やコーチも同じような感じだ。どういうことなのだろう。 色々と聞こうとしたが、灰崎は聞く耳を持たず屋上から出ていった。なんだか嫌な予感がした。 ← → 戻る |