午前の部のトリである部活対抗リレーはバスケ部が一位をとり、終わった。 こればかりは違う団であるさつきちゃんと一緒に見たが、もうめちゃくちゃに興奮した。一位をとった瞬間なんて、さつきちゃんと手を取り合ってキャーキャー言った。 虹村先輩がキャプテンということでアンカーだったのだが、本当に本当に格好よかったのだ。一位でゴールしたあとのきらきらとした笑顔を私は忘れないだろう。相変わらずイケメンです。 午後の部の最初は学年競技である大玉転がしに出て、その後はさつきちゃんの玉入れを見届けた。そしてついに、 『次の競技は借り物競争です』 私の番が来た。 ドキドキしながら入場し、スタートレーンの横に整列する。まずは一年生からで、私たち二年生の出番はその次だ。うわ、この待ち時間変に緊張するな。 借り物競争、なんて名前がついてるけど帝光中の借り物競争は実質借り人競走だ。どうも人に関するお題が多いらしい。 去年だと赤司が仲の良い異性を引いて私を選んでくれた。私も同じお題を引いたら赤司を連れていこうかな。 『それでは次は二年生です』 体育委員の誘導に従ってスタートレーンへと並ぶ。お題の紙が置いてあるところまで、まずはトラックを半周走らなければならない。結構遠いな。 パァン、と銃声がなり慌ててスタートをきった。全速力で駆け抜けていきお題の紙を目指す。トラックを半周走った時点での順位はなんと一位だった。いや、でも大切なのはお題だからな。 「えっと…」 一番近くにあった紙を手に取り中身を確認する。 『怖い人』 怖い人? 真っ先に思いついたのは、国語の先生だった。若い女の先生ですぐ怒る先生だ。あの先生めちゃくちゃ怖いからな…。一瞬その先生にお願いしようと思ったけど、連れて行ってお題が怖い人とか知られたら普通に怒られそうだ。それは駄目。 でも、私が怖いと感じている人は他にはいない。一般論で行こう。 一般論、つまり客観的に見て周りから怖がられている人。私が知っている人の中で言えば、虹村先輩と灰崎が当てはまる。 ここで虹村先輩にいくのはさすがに失礼すぎる。てか虹村先輩は私から見たら全然怖くないしむしろ優しいしそしてめちゃくちゃかっこいいし。駄目だ。 となるとあとは灰崎だが、私は灰崎のクラスを知らない。つーかあいつここにいなさそう。体育大会なんてめんどくさいとか言ってさぼってそうだな。今から探しに行くのもありだけどそれはさすがに時間がやばい。怖い人というお題を満たしてる点では良いが時間的に最下位になりそう。 うーん難しい。 みんなから見ても怖い人で、出来れば同じ団の人で、お題を知られても失礼じゃないぐらい仲の良い人。 「あ、」 赤司じゃん。 えっ、待ってこれは赤司しかいないじゃん。 思いついた瞬間、むしろ赤司以外当てはまらないように感じた。なんで今まで悩んでたんだろう。赤司なら同じ団だから協力してくれるはずだし実際怖いし、でも仲は良いから怒られないだろうし。いやこれは赤司行くしかないな。 周りの人達は、お題を探そうともう駆け出している。私も慌てて赤司がいるであろう所へと走り出した。急がないと! 「赤司いた!」 「ん?」 「一緒に来てほしい!」 赤司はうちの団のテントの中にいた。応援したり競技を見る場所と実際競技をする場所のあいだにはロープがはられている。なのでこちらから赤司のいる所に入ることは出来ない。私は来て!と叫んでロープ越しに手を伸ばした。私の声に反応してテントの中にいるみんなが私の方をむくが気にしている余裕はない。やばい、時間が無い! 「どういうお題なんだい?」 「良いから!」 赤司の腕を掴み、私は赤司をテントから連れ出した。最初は驚いていた赤司だったが、すぐに察したらしく全速力で走ってくれた。なので普通に追い抜かれた。待って足はっや! 私が引っ張られるような体勢になりながらも、なんとかゴールをした。順位の書かれた旗を体育委員が持ってきてくれる。順位は二位だった。お題を見てから悩んだ割には良い順位だ。赤司の足のおかげだな。 「お題を見せてもらっても良いですか」 「はい」 体育委員の人にそう言われたのでお題の紙を見せれば、紙と赤司を何度も何度も見比べた。そしてわかりました、と苦笑いをされる。なんだなんだ、失礼なやつだな。赤司は怖い人だろう。 「赤司、ありがとう。急に呼んでごめんね」 「構わないよ」 赤司の方を見れば少しわくわくした顔をしていた。楽しかったのだろうか。それにしてもあんなに走ったのに息一つ切らしてないとかさすがです。 「名字、」 「なに?」 「どういうお題だったんだい?」 赤司が笑顔でそう聞いてくる。見る人みんながときめくような、王子様のような笑顔だった。 「怖い人」 「え、」 そんな笑顔はすぐに崩れ去った。 しばらくの間赤司の機嫌が悪かった。私のせいなのだろうか。 ← → 戻る |