月にだって手が届く


部活中、ビブスを洗っている時にあることに気がついた。

去年みたいに、体育大会で一位をとらないと一軍全員にジュースを奢るとかならどうしよう。

なんとなく借り物競争に出ることにしたけど、一位を取る自信は全くない。そんな足速くないし。てか借り物競争とか出たお題次第だと思うし。うわどうしよう。

「お、お疲れ」

「あ、お疲れ様です」

そんなことを考えていると虹村先輩がやってきた。どうやら顔を洗いに来たようだ。

「お前さ、今年何に出るか決まった?」

「出る?」

「体育大会だよ」

顔を洗い終えた虹村先輩が私の方を向いてそう言う。水も滴るいい男だ。
そばにあったタオルを渡せば、あんがとと受け取り顔を拭きはじめた。

「私は借り物競争に出ます」

「ふーん…」

虹村先輩の、タオルから覗く目からは何を考えているかわからない。

「一位を取る自信、あるか?」

「……ないです」

「そうか」


そのあと部活の終わりに部員の前で、体育大会で一軍は個人種目で全員が一位を取るように、と虹村先輩が言った。そして取れなければ、一軍全員にジュースを奢れとも言った。ここまでは去年と同じだ。

ただし、マネージャーに関しては一位を取らなくても良いらしい。え、待って。イケメンすぎる……。



そして当日。天気は快晴。暑すぎず寒すぎず実に良い体育大会日和だと思う。
去年と同じように開会式が行われて、あとは自分の団のスペースで競技が行われていくのを眺める。私が出る借り物競争と学年競技の大玉転がしは午後に行われるので、午前はひたすら応援するだけだ。

体育大会のしおりを広げてみる。とりあえず午前に行われる競技で必ず見ないといけないのはパン食い競走と部活対抗リレーだ。
パン食い競走は言わずもがな赤司と紫原が出るし、部活対抗リレーは虹村先輩が出るらしい。午後の競技で見たいのは玉入れと団対抗リレーである。玉入れはさつきちゃんが出るし騎馬戦と団対抗リレーには黄瀬が出る。今回結構見どころが沢山あるな。楽しみ。

『次の競技はパン食い競走です』

やばい、序盤にしてメインイベントが来た。
軽快な音楽と共に入場する人の中には、頭のとびぬけている紫原とオーラの飛び抜けている赤司がいる。こんなに遠目でも分かるってすごいな…。



そして結果だけ言おうか。

「おめでとう赤司、紫原」

「まあ楽しめたよ」

「もっと食べたかった〜」

当たり前というかなんというか、やはり赤司が一位をとった。そして二位は紫原。華麗なワンツーフィニッシュだ。

せっかくだし声をかけようと思って退場門で待っていたら、他にも出待ちの女子達が赤司を待っていた。体育大会の出待ちって何? しかもリレーじゃなくてパン食い競走でって。
赤司はそんな女子達をニコッと笑いかけながらあしらって、そして落ち着いた頃に私のところに来てくれた。後ろには紫原を引き連れて。

「余裕そうだったね二人とも」

「そうかな。最初紫原も出場すると聞いた時は少し焦ったよ」

「俺が赤ちんに勝てるわけないじゃん」

パン食い競走は腕を前に縛られて、少し高いところに吊り下がっているパンをジャンプして取りに行く競技だ。普通は何度もぴょんぴょんと跳ねてパンをとるものだ。しかし赤司はたった一回の綺麗なジャンプでパンを颯爽と掴み取った。紫原に至ってはジャンプすらしていない。やはり身長的にチートだった。

それでも赤司が紫原に勝ったのは、パンをとったあとゴールまでの走りの速さのおかげだろう。紫原が本気で走ってなさそうというのもあるけど。

「じゃあ俺は自分のところに戻るよ」

「あ、うん」

赤司がそう言って場を去り、私と紫原だけが残された。同じクラスなのでとりあえず一緒に行動する。

「…紫原ってもうほかに出る競技ないの?」

「ないね〜めんどくさいし。あんたはなんか出るの?」

「借り物競争に出るよ」

「へえ、まあ頑張って〜」

紫原とはそこまで話したことはないが、それでも一年間同じ部活だったということもあり普通の会話は出来る。気まずいかも?と思ったけど意外とそうでもなかった。

「そういや俺、誰が何に出るとかなんも知らないや」

「同じクラスだったら黄瀬が団対抗リレーに出るって」

「うわ、ぽいわ」

「しかもアンカー」

「ぽいわ〜」

そう言って紫原が少し笑った。なんかめっちゃ笑顔で走りそうだよね黄瀬ちん、なんて紫原が不意打ちで言うもんだから私も少し笑ってしまった。分かる。


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