君は微熱に気がつかない


そして、さつきちゃんが二軍の試合に同行した次の日。

「黒子っち!」

何故か黄瀬が黒子に懐いていた。
今は部活の休憩時間。黄瀬はあだ名で黒子のことを呼び、駆け寄っていく。黒子は相変わらずの表情でそんな黄瀬とやりとりをしていた。めっちゃ仲良くなってんじゃん。いやどういう状況? なにがあった。

「でね! 黒子くんがすごかったんだよ!」

そしてさつきちゃんも黒子のことを褒めている。

「どうすごかったの?」

「うーん、上手く説明できない...」

さつきちゃんはおでこに手を当ててそう言った。可愛い。

でもどうやら、黒子の凄さは試合を見ないと分からないようだ。うわ、私も早く見てみたいわ。

「あ、赤司くんなら上手く言えるかも!」

「あー確かに、説明上手そう」

「聞いてみなよ!」

さつきちゃんのテンションが不思議なぐらい上がっている。ほらほら! と背中を押されてなんとなく意図を察した。

そういえば私、最近赤司と話してないな。クラスが離れたから仕方ないけど、前に車で送ってもらったっきりちゃんと話してない。姿は毎日部活で見てるんだけどね。噂は毎日のように教室で聞いているんだけどね。一番遠いクラスなのに噂流れてくるとかやっぱり赤司半端ないな。

「まあ、今度タイミングみて聞いてみるね」




そうは言ったものの、夜になり家でのんびり過ごしていると、昼間のことが気になってきた。
何故黒子のプレイはすごいと言われるのか。そして何故それは説明できないのか。

机に置いた自分の携帯を見つめる。この時間に赤司と連絡を取る方法。それはメールしかなかった。...送ってみる?

『赤司、おつかれ
急にメールしてごめんね
黒子がなんであんなにすごいって言われるか知りたくてメールしたの
もし時間あるなら、返事くれると嬉しい』

文面を作り私は送信ボタンを押した。こんなことでメールをして少し後悔の気持ちも出てきたが、こういうのは勢いだ。大丈夫大丈夫、赤司なら怒ったりしない。さて、赤司が返事をくれるのかどうか。

そう思ったが、返信は案外すぐに届いた。

『お疲れ様名字
メールが来て驚いたよ
そして、黒子の凄さは試合を見ないと分からないさ』

赤司からも試合を見ろと言われるとは。
ええ、次に私が試合を見るのっていつだろう...。結構先な気がするな。

『了解
返信ありがとうね』

そう打ってメールを返せば、即座に着信音がなった。え? 返信にしてもさすがにはやすぎない?

驚いて携帯を開けば、そこに表示されていたのは見慣れない電話番号で。...いやいやいや、まさか。
登録していない番号からの電話は基本出ないようにしている。でも、もしかしなくても、このタイミングでかかってくるということは、

「……もしもし」

『やあ名字』

緊張しながら電話に出れば、聞こえてきたのは予想通りの声だった。赤司だ。案の定赤司だ。その声を聞いて私は激しく脱力する。

「...赤司、なんで私の番号知ってるの」

『どうしてだろうね』

フフ、と電話越しに笑う声が聞こえてきた。いや笑い事じゃないだろ。と思ったが突っ込まないでおく。
そういえば一年前も、赤司にアドレスを教えていないのにメールが届いたっけな。私の個人情報漏れすぎじゃない? 赤司私の住所とか知ってそうだよね。ごめん偏見。

「てか急にどうしたの」

『そうそう、名字に伝えたいことがあってね』

「伝えたいこと?」

『ああ、タイミングがあれば直接言おうと思ったんだが、メールがきたからちょうど良いと思ってな。電話をかけたんだ』

「そうなんだ」

赤司がわざわざ電話をかけてくるぐらいだし、何かしら用事があるのだろう。そう思って聞いたがその予想は当たっていた。
それにしても伝えたいことってなんだろう。部活関係かな。


『名字、生徒会に入らないか』

「え、嫌だ」

思わず即答した。

『..……』

「……」

電話越しに沈黙が流れる。

『...どうしてだ』

「むしろなんで?」

どうして、なんて言われても理由は一つだ。普通にめんどくさい。

帝光中の生徒会といえば規模が大きいことで有名だ。そしてその分仕事が多くとても大変、ということでも有名だ。
赤司が二年になり生徒会に入ったということは噂で聞いていた。部活もやりつつ生徒会もこなすとは流石赤司様じゃんやばいわ半端ないわ的な噂を聞いていたのだ。私もその話を聞いて流石赤司だなと思ったのを覚えている。バスケ部ってただでさえ忙しいのにそのうえ生徒会もこなすって...。まあ赤司にしか出来ない。

『入らないのか』

「めんどくさいし絶対嫌」

私は生徒会にはいるタイプの人間ではない。元々、部活や委員会すらも億劫に感じるタイプなのだ。部活は赤司に勧められなければ入らなかっただろうし、まして生徒会なんて本当に無理無理。

『...生徒会は大変という印象を持たれているが実際に入ればそうでもない。内申にも関わるし、ぜひ名字も入ったらどうだ』

「本音は?」

『...え?』

「だから、本音は?」

生徒会について熱弁する赤司にそう聞き返せば、赤司はしばらく沈黙した。
こいつはそんな内申とかどうとかで勧誘してくるやつではない。割と長い付き合いなのだ。そういうことはすぐに分かる。
誘ってくることに関して、考えられる可能性は二つだ。

一つ目、生徒会が大変なので私も巻き込もうとしてる。
これは去年の文化祭でもあったことだ。お前も一緒に苦しむが良い、的な。疲れてる赤司にありがちな傾向である。

そして二つ目。こっちの方が有力かもしれない。

『...話す機会が増えるだろう』

生徒会に入ればもっと仲良くなれるよね、というものだ。はいビンゴ。

『今は部活しか接点がないが、生徒会に入れば関わりも増えるじゃないか』

カップルか?

赤司と私の関係にそんなものはないってはっきり言えるけど流石にその理由はカップルだ。

「赤司って、結構馬鹿なとこあるよね」

『...生まれて初めて言われたよ』

少し拗ねたように言う赤司。
でもまあ生徒会は話す目的だけで入るようなものじゃない。丁重にお断りして電話を切った。

『じゃあまた明日、おやすみ』

切る前に言われた言葉がしばらく頭の中に残っていた。赤司良い声してるもんな。


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