負けるな危険


今日は始業式の日。部活の朝練が終わり、私とさつきちゃんはクラス替えが発表されている掲示板のところにいた。

「あー、緊張するよぅ」

「そうだね…。さつきちゃんと一緒のクラスなら良いんだけど」

「私も名前ちゃんと一緒が良いな!」

人の量が凄く多くて、クラス分けの紙を読める距離になるまでは時間がかかりそうだ。さつきちゃんと身を寄せあって、1歩、また1歩と前へ進んでいく。

それにしてもクラス替えは緊張する。私は友達が多いほうじゃないから、新しいクラスに友達がいる可能性は低い。知らない人がたくさんいる中に放りこまれるのはやっぱり怖く感じる。さつきちゃんと一緒だったら嬉しいけど、帝光はクラス数が多いからまあないんだろうな。

「あ、読めるよ!」

さつきちゃんに言われて前を向く。前にいた人が少なくなり、紙に書かれた文字を読むことが出来た。後ろから押されながらも慌てて自分の名前を探す。

「あ、あった!」

「私もあった!」

自分の名前を見つけた。その前後の人の名前を見ていくけど、残念なことにさつきちゃんの名前はない。わかってはいたけど悲しい…。

「あれ、私紫原と同じクラスだ」

「え! いいなあ!」

さつきちゃんがいないことに落胆しながらも文字を追っていけば、紫原という文字が見えた。他に一軍の選手の名前は見当たらない。
なるほど、紫原と同じクラスなのか。紫原の後ろの席になったら黒板見にくそうだな。

「赤司くんとは離れちゃったね」

「…そうだね」

探してみたけど、赤司とは一番遠いクラスになっていた。




「まだ残っていたのか」

「ん? …ああ、赤司か」

始業式から一週間。赤司のいない教室は少し違和感があったが、少しずつ慣れてきた。心配していた友達も出来はじめたし、二年生の滑り出しはまあまあ順調だ。

赤司とは一年の時と比べて喋る回数が減ってしまった。まあそれでも、部活の合間とか廊下で会った時とかほかの人と比べたらかなり話すんだけど、同じクラスの時と比べるとどうしても少なく感じてしまう。

「教科書を忘れちゃってね」

部活が終わったあと、私は教室に英語の教科書を置いてきてしまったことに気がついた。普段なら放置するんだけど明日は英語の小テストがあるので取りに行くことにした。そして無事英語の教科書を手にして、さあ帰ろうと門を出たら赤司に声をかけられたのだ。

「日が伸びてきたとはいえもう暗い。家まで送っていくよ」

「え? もしかして車来てるの?」

「歩きだが、呼んだら来てくれる」

「いや! それはさすがに申し訳ない」

いやそんなわざわざ車を呼んでまで送ってもらうなんて。正直、赤司が車で来ているなら乗せていってもらおうかなというやましい心はあったが、私のために呼ぶとなると話は別だ。赤司にも運転手にも申し訳ない気持ちになる。

「気にしなくて良い」

「いやいやいや」

笑顔で携帯を取り出す赤司を慌てて止める。が、赤司は私を片手で制して電話をかけた。そして二三言、簡単に会話をして通話を切る。

「せっかく会ったんだ。少し話をしながら帰ろう」

嬉しそうにそう言う赤司を誰が止められるというのか。


しばらくして見慣れた高級車が学校の前に来た。もはや顔を覚えてしまった運転手に挨拶をして私は車に乗り込む。相変わらずふっかふかだな。

「…あ、そういえばさ、聞いてよ」

「どうしたんだい?」

クラスの話やバスケ部の話をしばらくしてから、私はあることを思い出して赤司にそう言った。

「今日部活終わったあと、体力測定の結果をみんなで比べてたじゃん?」

「そうだね」

新しいクラスになり一週間。体育の授業では様々な体力測定が行われている最中だ。
今日の部活が終わったあと、一軍の選手たちが集まってお互いの結果について話していた。私はその時片付けをしていたが、ついついその話を聞いてしまった。そして衝撃の事実を知ることになる。

「私の握力、青峰とほぼ一緒だった…」

「えっ」

赤司は目を開いたまま固まってしまった。

もともと力が強いのは自覚していた。去年の自分の握力測定の結果が男子と比べても高いのも知っていた。恥ずかしくて、結果を体育委員に伝える時に結構なサバを読んだのを覚えている。もちろん今年もサバを読んで伝えた。

中学に入り、赤司のおかげで喧嘩などはかなり落ち着いたと思う。急にきれることもなくなったし、力を使う機会も減った。
だから私は、握力や力は落ちているもんだと思っていた。しかしその考えは甘かった。なんと去年よりかなり記録が伸びていたのだ。なんでだよ。これが成長期ってやつか…?

「赤司?」

なんて感慨にふけっていたけど、赤司がずっと動いていないことに気づいた。こっちを見て固まったままだ。

「どうかした?」

「……いや、なんでもない」

しばらくの沈黙のあと、赤司は小さな声でそう言った。



次の日、部活のあとに握力を鍛えるグリップを握っている赤司を見た。そっか、私より握力低かったんだな…。そして気にしてるんだな…。ごめん赤司。


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