曖昧な戸惑いを侵食するのは


我が校の体育大会は午前の部と午後の部があり、4つの団が優勝を目指して競い合う。午前の部のトリは部活対抗リレーで、午後の部のトリは団対抗リレーだ。

私は自分の団のテント下に座って、さつきちゃんと一緒に体育大会を見ていた。影があるとはいえもう5月、少し暑い。
今は午後の部の中盤であり、私のクラスが含まれる白団は2位にいる。ちなみにさつきちゃんのクラスも同じ白団だ。

「1位とれてよかったねえ。」

「うん!名前ちゃんに迷惑にかけなくてよかった!」

「気にしなくていいのに。」

さつきちゃんは先ほど、無事にパン喰い競争で1位をとった。めでたい。
ちなみに私の出た玉入れも1位をとった。ジュースの勝負に関係ないとはいえとても嬉しい。学年競技の綱引きも終わったので私たちの出る競技はもうない。あとは他の人が出る競技を見るだけだ。

『次は、借り物競争です。』

放送でそう伝えられる。借り物競争、赤司が出るやつだ。

「1軍で借り物競争に出る人、誰かいたかな?」

「赤司が出るよ。他の人は知らないけど。」

「へ?赤司くん!?」

さつきちゃんは目を丸くして驚いている。うん、やっぱりこういう反応になるよね。赤司が借り物競争とか違和感バリバリだもんね。

「なんか、ただ走るだけじゃ勝つのが当たり前だからつまらないって言ってた。」

「赤司くん足速そうだもんね。」

「去年見たけどめちゃくちゃ速かったよ。顔かっこいいし頭いいし、なんか色々ずるいよね赤司。」

「もしかして、好きになっちゃったり…?」

「へ!?」

さつきちゃんは口元に笑みを浮かべながら小さな声で私に話しかけてきた。え、まさかの恋バナ…!思わず手と首をブンブンと振ってしまう。

「いやあ、ないない。赤司はなんか違う。」

「でも、赤司くんは名前ちゃんのこと好きかもしれないよ?よく話しかけてるし。」

「それこそ本気でないと思う…。」

か、勘弁して欲しい。
確かに話しかけられるのは事実だ。でも、赤司はただ私に借りを返すために関わっているだけ。私はそれに頼っているだけ。お互いそんな感じなので好きなんてない。

えーそうかなー?というさつきちゃんにないよーと再び首を振る。バスケ部に入る前の私なら、しつこいと言って怒っていただろうに、自分の気が長くなっているのを感じる。まあ相手がさつきちゃんというのも関係あるだろうけど。さつきちゃんには怒るとか出来ない。

グラウンドに目をやると、第一走者がスタートの位置に並んでいるのが見えた。その中には今話題にあがっていた赤い髪もあった。赤司は第一走者か。赤司は応援しなくても余裕で1位とりそうだな。まあ同じ団だから応援はするけど。

パン、と銃声がして走者が一斉に走り出す。借り物競争では、グラウンドのトラックを半周したところに折りたたまれた紙がいくつか落ちていて、それを拾って書いてあるものと一致するのを探して、一緒にゴールを目指す。
赤司はぶっちぎり1位で紙の置いているところに来ていた。紙を拾った赤司は少し考える素振りを見せる。なにか鬼畜なやつでも書いていたのだろうか。気になる。

瞬間、赤司とバチッと目が合った。そしてこちらへと走って来る。え?


「名字、来てくれ。」




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