贅沢のむこう側



「名字、行きたいところはあるか」

「へ?」

いつも通りの休み時間。トイレから席へと戻ってきたら、赤司がこっちを凝視して待っていてそんなことを言った。

「なんで?」

「もうすぐホワイトデーだろう」

「うん」

たしかに今週末はホワイトデーだ。バレンタインの日、赤司にほかの部員とは別でチョコをあげたことを思い出す。割と忘れてしまっていたけど赤司は律儀だからなにかお返しでもくれるのだろうか。でもそれと行きたいところがあるかどうかになんの関係が?

「お礼を考えていたんだけどね、ものだけじゃなく行動でも示したいと思ったんだ」

「あ、ものをくれるのは決定なんだ」

「まあそうだな。ただ、名字になにをすれば喜んでくれるかいまいち想像がつかなくてね」

なるほど、だから行きたいところがあれば連れて行ってくれる的な感じか。いやさすがに律儀すぎない? 想像を遥かに超えてきた。

「別にそんな、良いのに」

「俺がしたいんだよ」

でた、ここでの王子様スマイル。軽く頬杖をつきフッと笑う姿は相変わらずキラキラしている。が、この間爆笑していた姿がどうしても脳内をよぎる。どんだけ綺麗な表情をしようとも忘れないからな。

それにしても行きたいところか。別にそこまでしてくれなくても良いんだけど、赤司は割と頑固だからすると言ったらするんだろう。この言いぶりだと私の行きたいと言ったところに赤司が着いてくるのは確実だ。つまり赤司と2人で行くことになる。

赤司と行きたいところ………。




「いらっしゃいませ、お二人でのご利用ですか?」

「はい」

店員さんに聞かれて私はそう答える。ここはなんと、カラオケだ。

あの後、私はカラオケに行きたいと答えた。
選んだ理由は3つある。
そんなにお金がかからない。
シンプルに赤司の歌が聞いてみたい。
二年生になりクラスが離れればこうして出かけることもなくなるだろうと思い、せっかくだし思い出を作りたかった。以上だ。

今日は土曜日だが、体育館点検により午後からの部活が休みである。赤司からの反対もなかったし、今日はばっちりと赤司の歌声を聞かせていただこう。割と楽しみ。


受付で利用する時間や機種を選択している私の後ろで、赤司は色々なところへ視線を動かしている。さっき聞いたところ、カラオケに来るのは初めてらしい。なんとなく灰崎とラーメン屋に連れていった時のことを思い出した。懐かしい気持ちになる。灰崎を呼んでも良かったかな。いやややこしいことになるな。

受付を済ませ、赤司と一緒に部屋へと移動する。部屋は机に対してソファが二つ向かい合っているよくある造りだった。私が座り赤司はその向かいに座る。

「すまないね、受付を任せてしまって」

「全然大丈夫」

薄暗い部屋の中で背筋をピンと伸ばし座る赤司は浮いて見えた。ラーメン屋の時も思ったけどこういう場所、本当似合わないよなあ。
赤司の前にデンモクを持っていって簡単に使い方を説明した。

「これで曲を流すのか」

「そうそう、お互い好きな歌を適当に入れていこうか」

「なるほど」

不慣れな様子でデンモクを操作する赤司を、とりあえず何も言わずに眺めることにした。

「……知っている曲があまりないな」

「ジャンルとか見てみたら?」

「ふむ」

しばらく操作したあとに赤司が入れた曲は、どんぐりがころがっていく童謡だった。え、何が起きた。

「なんでこの曲選んだの?」

「幼い頃に歌ったことがあるからだよ。…文句でもあるのか」

「ないでーす」

不貞腐れたように赤司は言う。てか知ってる曲が童謡って、テレビとか見ないのかな。流行りの曲なんて知らないのか。

「ちなみに録画して良い?」

「拒否する」

私からの提案はマイク越しに断られた。


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