今、私は真太郎の家にいる。 ちなみにやましい目的ではない。そうだったら死ぬほど嬉しいしむしろ自分から据え膳作っていくスタイルを貫くけどそうではない。来週からテストがはじまるので勉強を教えて貰いに来てるのだ。 「え…なにこれ全然わかんない……」 「おい、まだ基本問題だぞ。」 私たちはこの4月で2年生になった。 そして2年生になった私を待ち構えていたのは、真太郎と高尾くんが同じクラスで私がまた一番遠いクラスという事実だった。おい!誰だよ!クラス替え担当してるやつはよお! 全身引き裂いてやろうか!! はいすいません、取り乱しました。 そして2年生になってさらに辛いことは、数学の意味不明度があがったことだ。ベクトルってなに。なんで上に矢印がつくのか。 真太郎の天才的な説明能力のおかげで、かろうじて課題は進めれるがそれも牛歩のように遅い。えっ、この量終わる? 誰も終わんないでしょ。 もう1時間ぐらい取り組んでいるが片手で数えられるほどしか進んでいない。しかし真太郎はこんな私にも丁寧に教えてくれる。こんな理解力の低い私に根気強く付き合ってくれるの真太郎だけだよ。だからこそ一生一緒にいてくれや。 「あーもう難しい!」 「黙って進めるのだよ」 「こんなのテストで解ける気がしないよぅ…」 「落ちたら潰すからな」 「真太郎怖すぎ……あっ!でもそれはもしかして私が留年してしまったら一緒に大学生活を送れなくて悲し「口を動かしてる暇があるなら手を動かせ」 「はい」 真太郎の口調に怒りが混ざりだしたので大人しく黙る。そして課題を進める。 私が課題に取り組むのを確認して、真太郎は自分の教科書を見始めた。自分だってテスト勉強をしないといけないのに、その時間を使って勉強見てくれてるんだもんなあ。なんだかんだいって本当に優しい。はい好き。 しかしそんな気持ちも束の間。すぐに分からない問題だらけになってしまった。 「もう駄目だ…」 「頑張るのだよ」 「頑張るから、テスト終わったらご褒美ちょうだい…」 「別に構わんが」 「えっ!マジ!!」 「静かにしろ」 駄目元で言ったら本当にご褒美をくれる流れになってびっくりした。え? なにくれるんだろう。私がリクエストして良いのかな。なんでも良いのなら真太郎の人生がほしい。この世で一番欲しいもの、そうそれは真太郎の人生。 「すっごい頑張る」 「平均点以下をとったら無しだからな、励むのだよ」 「厳しくない……?」 しかしそれを乗り超えてくるのが私だよ! 「みて! 真太郎! 高尾くん!」 「うわすげえ」 高尾くんの驚いた声を聞いて思わず笑みがこぼれる。ふふふふ、わたくしとってもとっても頑張りました。真太郎の後を追って秀徳に来た時並に頑張りました。なんと、全教科平均点を超えた。半端なくない? なんでだと思う? 真太郎の人生が欲しいからだよ! 「すげえな名字ちゃん」 「まあ真太郎のおかげだけどね!」 「俺が教えたから当然なのだよ」 「ドヤ顔する真太郎可愛すぎ…」 「なぜ泣く」 おっといけないつい涙が。テスト期間に徹夜し続けたのとテストが返ってくるまでの不安さで最近情緒が狂ってるんだよなあ。だから何故かすぐに涙が出る。主に真太郎の可愛さのせいで。いやこれ前からだな。情緒関係ねえわ。 「約束、忘れないでね真太郎!」 「当然なのだよ」 「約束ってなんの?」 「お前には言わん」 「きびしっ!」 そして夜になり、私は真太郎の部屋に呼ばれた。 今日は帰りに寄るところがあるのだよと言われ、真太郎とは別に帰ることになった。1人の下校は寂しすぎて悲しみの嵐が吹き荒れたが、夕食を食べたら部屋に来いという連絡が来てそんな嵐は無くなった。 え、勉強以外で部屋に呼ばれるとかこれはもう、もしかしてもしかしてお泊まりですか。なにそれ大事件じゃん。とりあえず持ちうる限りで1番いい下着をつけてきた。硬派な真太郎に限ってそんなことは無いだろうけどね。万が一ってことがあるしね! まあ本気で無いと思うけど。悲しい。 「何が欲しいのか言うのだよ」 腕を組み真太郎はそう言う。あ、リクエスト制なんだ。やばいなんても頼めるじゃん。人生のサービスタイム来ましたわこれ。さあさあなにをもらおうか。やっぱり真太郎の人生? そればかり考えすぎてむしろほかに欲しいものが思い浮かばなくなってきた。 「好きなものを言うが良い」 胸を貼る真太郎が可愛すぎてとてもつらい。でも少し違和感を感じる。真太郎ってこういう状況でこんなにノリノリなキャラだっけ?いや違う。真太郎歴五年目の私が考察するに、真太郎はこんなことにノリノリなキャラではない。 「どうしたの?」 「なにがだ」 「こんなに乗り気なの、珍しいなって思った」 「お前が欲しがるものなどわかっているからな」 「えっ」 まさか私が真太郎の人生を欲しいと思っていること、ばれてた? やだ照れる。でもそれを理解した上で真太郎がご褒美あげる発言をしたってことは、本当に人生をくれるの?え?本気でやばい。人生くれるとか、も、も、もはや結婚 「名前のラッキーアイテムはばっちり用意しているのだよ」 ではなかった。 「…え?」 「ラッキーアイテムが欲しいのだろう。お見通しなのだよ」 自信ありげな顔をして立ち上がり、自分の机の引き出しをあける真太郎。私も立ち上がってその中を見れば、中には大量の箸置きが並んでいた。 「お前の星座の明日のラッキーアイテムは箸置きだ」 「……」 「大きさや色など好みはあるだろうが、いくつか店を回り様々な種類のものを集めてきた。ぬかりはない」 ふ、と笑いメガネをあげる真太郎。いや、今日帰り寄るところがあるって言ってたのはこれを買うためかい。私のためにわざわざありがとう。…じゃなくて、うん。これは予想外だわ。 「真太郎、」 「どうした」 「私が欲しいもの、それじゃない」 「……なんだと」 目を丸くし驚いた顔をする真太郎。さっきから表情がコロコロ変わってハチャメチャに可愛いけど今はそれどころじゃないな! 「私が! いつ! ラッキーアイテムがほしいっていったよ!」 「なっ! 言わずとも欲しいものだろう!」 「それは真太郎だけ! そりゃあ真太郎が部活が終わって疲れてる中私のために色々なお店に回って買ってきてくれたのは滅茶苦茶嬉しいけども! 真太郎が触れたってだけでその箸置きはハイパープレミア品だから今回の御褒美とは別に買い取らせてほしいけども! そうじゃなくて!!」 「気持ち悪いのだよ!」 思わず頭を抱えて唸ってしまう。真太郎がスーパー天然エンジェルということは前々から知っていたがまさかここまでとは思っていなかった。私がこの五年間でいつラッキーアイテムが欲しいと言ったよ! 真太郎はほしいけどラッキーアイテムはいらないんだよ……! 「…じゃあ、何が欲しいのだよ」 「うっ」 じっとりとした目で見られて言葉が詰まった。真太郎の人生が欲しい、ということは言っても良いのか? 怒られないかな? 「……真太郎の人生」 とりあえず言ってみた。なんとなく真太郎の顔が見れなくて、視線を床にむける。こういうことを言った時の真太郎の反応は、照れるかふざけるなと怒るかの二択だ。前者なら可愛すぎて崇め倒せるけど後者ならわりと怖い。最近真太郎人を睨むだけで殺せそうな目するから。本当に怖いんだよ。 「……」 そんな考えとは裏腹に真太郎からのアクションはなにもない。無言とはとは如何程に。照れてるのか怒っているのかわからないけど確認のために真太郎の顔をおそるおそる見た。 「え?」 真太郎は照れるでも怒るでもなく普通の顔をしていた。本当に普通の、喜怒哀楽の何も無い感じ。なにこれ、逆に怖い。怒りすぎて無の顔とかだったらどうしよう。 「真太郎?」 「…俺の人生が欲しいもなにも、」 その顔のまま真太郎は口を開く。 「もうお前のものだろう」 爆弾発言が飛び出した。 ……え? いや、ちょっと待って、理解が追いついていない。 「今更何を言っているのだよ」 「いや、あの、」 「そんなことより、欲しいものがラッキーアイテムではないのなら他のものを言え」 面倒だがまあ用意してやらんこともない、と真太郎は鼻を鳴らした。 ……いや、うん、待って。欲しいもの云々とかもはやそういう次元ではなくなった。そんなの吹き飛ばすぐらいのすごい発言したよね。聞き間違いじゃないよね。 「とりあえず今のは幻聴じゃないよね?」 「何の話だ」 「真太郎の人生って私のものなの?」 「そうだが」 「なんで?」 真太郎につめよってそう聞けば、真太郎は何を言っているのだよと呆れた声で言った。 「お互い好きあって付き合ってるのだ。必然的に将来はそうなるだろう」 私の脳は考えることをやめた。どうやら情報が重すぎてオーバーヒートしてしまったようだ。 「……」 「?」 「……」 「おい、どうした」 「…………プ、」 「ぷ?」 「…プ、プ、プ、」 「なんなのだよ」 「プロポーズだーーーーーー!!!」 「なっ!!」 そう叫んでうわあああああああああと顔を抑えてゴロゴロ転がる。プロポーズ!プロポーズ!プロポーズ!!もはや私の頭にはその5文字しか浮かばなかった。プロポーズ! 真太郎からプロポーズ!! プロポーズされたああああああああ!!! 真太郎は自分の言ったことに気づいたのか私の大声に怒っているのかなんだかよくわからないけどとりあえず顔を真っ赤にして私の転がりを止めようとしてきた。無駄だ。私の転がりは止められない。なんだってプロポーズされたんだから!!! しばらくして私の大声を聞いた真太郎のお母さんが部屋にやってきて、プロポーズ!プロポーズ!と騒ぐ私を見て良かったわねえと祝福して下さった。 違うのだよ!と真太郎は叫んだが、なにも違うことは無いのだよ! ← → 戻る |