誰が為に君は聞く


年が明ける前に聞いていた、赤司が推薦したという3軍の選手が今日初めて1軍に上がってきた。
練習前に選手とマネージャーが集められ、紹介が行われる。

「今日から1軍の練習に加わる黒子テツヤだ」

監督がそういった瞬間選手がざわついた。そりゃそうだ。監督の横にたっていたのは、どうみても運動部には見えない線の細い男子。私も赤司から話を聞いた時はゴリラみたいな男を想像していたので、正直びっくりしている。てか全然ゴリラじゃないじゃん!
いやいやいや、待て。見た目で判断するのは良くないな。元々3軍とはいえまだ1年生で1軍にまでなったのだ。要は赤司をはじめあの化け物1年生集団と同じくくりに入るはずだ。見た目ではわからないけどすごい力を持っているに違いない!

しかし私のそんな予想はすぐに覆るのだった。

「おぉい、黒子!」

「ちょ、マネージャー!」

いつも通りマネージャー業務をしていたら、選手たちの慌ただしい声が聞こえた。マネージャーとよばれたので振り向くと、黒子が吐いていた。…え!?

「わ、私行ってきます!」

こういう仕事は後輩マネージャーの仕事だ。さつきちゃんは別の仕事で体育館の外にいるし、とりあえず先輩達に声をかけて私は黒子の元に走って向かった。

「どうしたの、大丈夫?」

「……ありがとうございます」

「これ飲んで、座ってて」

とりあえずスポーツドリンクを渡し、私は床に吐かれてるものの掃除に当たった。うえ、もらいゲロしそう…。
入部したては吐いてる人の手当なんて知らなかったが、練習がきつく吐く選手も多いため、先輩に教えて貰ってなんとか片付けができるようになったのだ。もらいそうになるのを我慢しながら床を掃除していく。そうしていると、さつきちゃんがも走って来て黒子に濡れたタオルを渡していた。私が来た時は顔色が真っ白だった黒子が、今では少しマシな顔色になっていた。うん、なんとかなるかな。

そのついでに改めて近くで顔をよく見てみたが、知らない顔だった。あとでさつきちゃんに聞いたが、さつきちゃんも知らないという。私とさつきちゃんは入部した最初、1週間だけ3軍のマネージャーをしていたからもしかしたら知っているかと思ったのだがそうでもなかった。途中入部とかなのかな?

黒子はその後、もう一度吐いてしまい、結局初日は黒子のすごさがわからなかった。てかあの体の細さでこれからやっていけるのかな。厳しそう。


その次の土曜日、1軍の人たちは他校との交流戦に向かった。2年生のマネージャーだけついていき、私とさつきちゃんはその日は2軍のマネージャーとして仕事をした。

その日からだ。黒子が幻の6人目と呼ばれるようになったのは。




「ねえ、黒子ってすごいの?」

「あん? …ってなんだ、お前かよ」

ある日の昼休み。いつもお弁当を一緒に食べている子が休みなため、私は屋上へとやってきた。まだ1月なのでとても寒い。厚着をしてきて正解だった。
なぜ屋上にまで来たのかと言うと、こいつがいると思ったからだ。

「あんたもこないだの交流戦に行ったんでしょ? 灰崎」

そう灰崎だ。どうやらこの間の交流戦は1年生を中心に試合を行ったらしく、灰崎も黒子とともに試合に出たそうだ。
あれから、黒子の練習を時たま見ていたが、いまだにどこがすごいのかはわからない。ただあの交流戦に行った人達いわく、よくわからないけどすごいということだ。一緒に試合に出た灰崎ならどうすごいのか知っているだろう。そう思って聞きに来たのだ。
灰崎は真冬にも関わらず屋上で寝転がっていた。私はその横に立つが灰崎は私に背を向けている。てか寒くないのかこいつ。なんか前もこんなことあったな。

「黒子ォ? ああ、あいつはすげえよ」

「そうなんだ」

少し驚いた。灰崎が人を褒めるイメージがなかったからだ。私の灰崎に対するイメージとは。

「どうすごいの?」

「んなもん見たらわかるだろ」

「まだ見たことない」

「…へえ、」

そう言って灰崎はニヤリと笑ったのがわかった。嫌な予感がする。

「タダでは教えねえ」

「え?」

私に背を向けていた灰崎がこちらを向く。タダでは、ってなんだ。金でも要求するのか。いやこいつのことだからなんか奢れとか言ってきそうだな。そんなことを考えていたら、灰崎が口を開いた。

「…色気のねえパンツ」

「は、?」

寝転んでいる灰崎と立っている私。灰崎の目線は私のスカートの中に向いていた。その口は相変わらず笑っている。私はすべてを察した。そして叫んだ。

「こっ、のやろう!!」

灰崎の顔に向かって足を振り下ろせばゴッと鈍い音がした。

「…あっぶねえな、お前!」

灰崎は間一髪のところで避けていた。寝転がった姿勢から体を起こしていた。

「あんたが悪い」

「いや殺す気かよ」

「殺す気だった」

「うわこえー」

灰崎はケラケラと笑った。何が面白いのかさっぱりわからない。ただパンツを見られた怒りは少し静まった。前までの私ならそのまま殴りかかっていただろうに。
今の足だって、灰崎が避けることをわかっていたけどあえて振り下ろした。そう、元々当てるつもりなんてなかったのだ。最近自分から喧嘩早さが少しずつなくなっているのを感じる。

「あいつのすごさとか、そのうちわかんだろ」

「なに、教えてくれないの」

「まあそのパンツじゃ教えれねえわ」

「キレていい?」



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