恋の鳥は不在のまま


テストが終わりしばらくして冬休みに入った。冬休みになったからといって部活に変わりはない。年末までしっかり練習をこなし、大晦日と正月だけ部活が休みで、そこからまた練習だ。

大晦日、私は家で過ごしていた。さつきちゃんに初詣行こうよ!と誘われたが、気持ちだけ受け取り丁重にお断りした。人混みが苦手、というとさつきちゃんは納得してくれた。

テレビの中ではアイドルが芸人がカウントダウンをしている。普段は早く寝る方だが今日は特別だ。年が変わる瞬間を見てから寝よう。

ハッピーニューイヤー!とテレビの中の人たちが大声で言った。年が変わった。

その瞬間、携帯から着信音が聞こえた。携帯を開くとさつきちゃんやほかの友達から何件かメールが来ていた。あ、メールのことすっかり忘れてた。
中身を確認すると、カラフルなあけましておめでとうという文字と絵文字が踊っている。嬉しいな、こういうの。

内容を読んでから私も同じように返信をしていった。そこでふと気づく。

赤司にもメールをするべきか?

私と赤司がメールをしたのは、部活に入ってすぐの頃とラーメン屋に誘われた時ぐらいだ。普段からするわけではない。まあほぼ毎日会ってるしな。
今年は中学に入学して、赤司と接する機会がかなり増えた。自分の性格のことや、バスケ部に勧誘されたこと、赤司に世話になったことはたくさんある。ここはやっぱり感謝の気持ちをこめてメールを送っておこう。

『あけましておめでとう。去年は色々ありがとう。今年もよろしくね』

赤司に対してカラフルで絵文字がたくさんあるメールを送るのもどうかと思い、シンプルにそれだけ書いて送信した。赤司は夜更かししないだろうし、正月は父親の親戚や仕事仲間の人と会うとか言っていたから、返事はまあ来ないだろう。てか仕事仲間と会うってなに。お金持ちの家は色々大変そうだな。

結局返事は来なかったが、年明けの最初の部活で「メール、ありがとう」と赤司に直接言われた。なかなか良い感じの年明けを迎えれた気がする。今年も良い一年になりそうだな。


なんて思ってたのが冬休みの話だ。今日は始業式の次の日。私は頭を抱えていた。

「はい、じゃあ席替えするぞ」

ホームルームで先生がそう言い、クラスが少し騒がしくなった。私はそれを頬杖をつきながら聞いていた。
実は席替えは、こうしたホームルームの時間をつかい月一度行われている。私は一番前になることも一番後ろになることもなく、真ん中あたりになることが多かった。赤司とも特に近くなったりすごく遠くなったりもなく、まあ普通ぐらいの距離だったのだ。今までは。

席替えのくじをひき、先生が黒板に名前を書いているのを見て私は目を疑った。

なんと、私の後ろの席に赤司がいる。

固まった状態で黒板を見ていたら、視線を感じた。見なくてもわかる。赤司だ。私は頭を抱えた。

全員がくじを引いたとかなんとかで、席の移動が始まる。私も慌てて移動をした。
窓側の前から3番目、その後ろには赤司。

「初めて席が近くなったね」

「…ソウダネ」

「なんだ? 不満でもあるのか?」

「いや、別に」

別に不満はない。ただ、赤司が後ろにいると授業中に変に緊張しそうだ。あと、あくまでも予想なんだけど、心配してることがあって……


それから夕方になり、放課後の部活が始まった。選手達は学校が始まったにも関わらず元気に練習をこなしている。しかし私は疲れていた。

「名前ちゃん、どうかした?」

「聞いてよさつきちゃん…」

私の心配は見事に的中した。それは席替えが終わり授業のあと、休み時間のことだ。

「名字、今の授業で少し居眠りをしていただろう」

「えっ、ばれた?」

「よくわかったよ」

「まじかあ」

「次に寝ていたら起こしてあげようか」

「何その優しさ」

「ペンで刺すとかで良いかな」

「こっわ!」

「冗談だよ」

またその次の休み時間。

「さっきは起きていたね」

「まあ赤司に刺されると思うと起きれるよね」

「じゃあ常にペンでも構えていようか」

「殺す気?」

「まあ流石に冗談だけど、」

「今日多いね」

「学年末試験もあるんだ。寝てる場合ではないよ」

「はい…」

またまたその次の休み時間。

「先生に当てられたけど、答えられていなかったね」

「あの問題難しくなかった?」

「公式を使えば大丈夫だろう」

「そうなの?」

「この部分にこの式を使えば良いだけだ」

「あーなるほど」


と言った感じだ。皆さんお分かりいただけただろうか?

「めちゃくちゃ話しかけてくる……!!」

さすがに授業中話しかけられることはないけど、休み時間の度に声をかけられた。なんで? なんか席替え初日でテンションあがったとか? てか赤司私のこと見すぎじゃない?黒板見ようよ。 まあ賢い赤司のことだからちゃんと授業も聞きつつ私のこと見ているんだろうけど。これじゃあ迂闊に内職もできない。あと地味に周りの目が怖い。さすがにもう喧嘩を売られるようなことはないと思うけど、それにしても女子の目が怖い。休み時間とかチラチラ見られてたからね。怖いよね。

「それはきっとあれだよ!」

しかし、そんな感じの私の話を聞いたさつきちゃんは、とても嬉しそうに頬に手を当ててそう言った。

「なに?」

「赤司くんは、名前ちゃんの近くになれて嬉しいんだよ!」

「え?」

そうだった。私は本当にいい加減この誤解を解かないといけないんだった。まあぶっちゃけ嬉しそうにしているさつきちゃんがめちゃくちゃに可愛いからこのまま見ていたいのもあるけど、だめだ。心を鬼にして否定しないと!

「いや、絶対違うよ」

「そんなことないと思うけどなあ」

「本当になにもないから」

「そうなの?」

「う、うん……」

上目遣いでそう聞いてくるさつきちゃんが可愛すぎて無理だった。負けた。

「いいな、そういうの。私も恋してみたいなあ」

別に私は恋してるわけじゃないけど…と思ったけど口には出さなかった。それにしても、恋か。今は全然興味がないけど私もいつか誰かを好きになるんだろうか。想像がつかないな。

一瞬赤司の顔が浮かんだけど、だめな気がしてすぐにかき消した。


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