思い通りは征服できない


「じゃあ男女に別れて、種目を決めてくれ。」

担任の言葉を受けてみんな席を立つ。再来週は体育大会。その種目決めだ。
足の速さには自信がある方だ。しかしうちのクラスには陸上部の女子が多いので、わざわざ私がリレーや徒競走に出る必要はないだろう。玉入れの欄が空いているのでそこに私の名前を書かせてもらう。
小学校の運動会で徒競走に出たことがあるが、隣を走る人にわざと転ばされブチギレて乱闘になった。玉入れならそういうことは起こらないだろう。

そういえば赤司は何に出るのだろうか。
リレーや徒競走で必死に走る赤司を想像したが、似合わなすぎて少し笑ってしまった。いや、赤司は走る系に出ても、必死な様子なんて見せずスマートにこなすか。モデルのように爽やかに走る赤司、…うん、こっちの方が想像しやすい。
そういえば小学校の運動会で赤司は何に出てたっけ。ふむ、と首を捻って考えるがどうしても思い出せない。

男子が集まっている方に目をやると、集団から少し離れたところに赤司が立っていた。もう出る競技には名前を書いたので、少しぐらいあちらへ行っても大丈夫だろう。赤司の方へと向かう。

「赤司、出る競技何にした?」

「借り物競争だ。」

「……意外。」

意外すぎる。徒競走やリレーは似合わないとは思ったが、借り物競争はまた別次元で似合わない。

「純粋な勝負だと勝ちが決まっていて面白くないからね、なにか条件があったほうがいいだろう。」

そう言って微笑む赤司の顔には、余裕の二文字が浮かんでいた。おおお、すごい自信だ。
そうだ、思い出した。確か赤司は小学校の運動会では障害物競走に出ていた。きっとあれも条件付けの一種なのだろう。こんな楽しみ方をする人初めて見た。さすが赤司。

「ああ、名字。これは主将の案で、今日のミーティングで知らされると思うのだが、」

「何が?」

「バスケ部1軍は、全員が個人種目で1位をとるのをノルマにするそうだ。」

「おおう…。すごいことすんね。」

全員1位ってなかなか出来ない事じゃないのだろうが。全国に行く部活はこういう場面でも全力で頑張るものなのだろうか、私にはよく分からない。
ん?というか、玉入れは1クラスから3人が出る競技だ。これは個人種目と呼ぶのだろうか。

「玉入れって個人種目に入ると思う?」

「微妙なところだね。」

まあ入らないんじゃないか、と赤司は続けた。よし、じゃあ私は関係ないな。こういう行事はあまり好きではないし、適当に投げて適当に終わらせばいいや。

赤司の言った通り、練習後のミーティングで、全員が個人種目で1位を目指すようにと主将から指示があった。
ちなみに1位をとれなかった場合は、部員にジュースを奢らなければいけないらしい。一見たいしたことないように思えるが1軍の部員は20人いる。つまり、もし1位をとれない者が1人の場合2000円以上の出費になる。地味に嫌な罰だ。

ミーティング後、さつきちゃんが眉尻の下がった顔でこっちに来て言った。

「どうしよう名前ちゃん。私、パン喰い競争なんだけど、1位なんて無理かも…。」

「大丈夫だよ。もし無理でも、私もジュース代半分出すよ。」

「えっ、それは悪いよ!」

「気にしない気にしない。私玉入れだし。」

手をヒラヒラ振りながらそう言う。まあ、私はこの勝負に参加していないようなものだし、さつきちゃんだけにジュースを買わせるわけにはいけない。半額ぐらい私が出そう。
さつきちゃんはありがとう…!と言って私に抱きついてきた。うっわ役得。最高。

そして、体育大会はあっという間にやって来た。


戻る
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -