うつむく時間があるのなら


私が保健室に言っている間に赤司がうまく説明したらしく、とくに私に対してのお咎めはなかった。
あの後、親にも連絡がいったが、人を守ったということで特に怒られはしなかった。赤司は一体なんと言って説明したんだろう。私に都合が良くいきすぎていて、正直恐ろしい。


ただ、しばらくして私が護身術使いという噂が流れ始めた。おそらく私が顔に湿布や包帯をつけ続けたせいもあるのだろう。噂はなかなか消えなかった。
まあそのぐらいいいかと放っていたら、いつのまにか私が赤司より強いという噂になっていた。ちょっと待って、尾ひれつきすぎ。

話の盛られ方については気になる。しかし赤司本人はまあ事実だしねといってあまり気にしていないようなので私もあまり気にしないでおこうと思う。噂なんて、ほっといたらそのうち消えるだろう。



でも、

「お前赤司のSPとして雇われてるってマジ?」

一体これはどうなんだろう。

目の前で真剣な顔をしてそう言う青峰を見て意識が遠のきかけた。なんだその噂。もはや尾ひれがつくとかそういう次元じゃなくないか。なに、SPて。

「違うよ大ちゃん!」

青峰の隣にいるさつきちゃんが、慌てたように叫ぶ。そうだ、違うんだぞ。私の代わりに言ってやってくれさつきちゃん。

「あ? SPじゃねえのかよ。」

「そういう関係じゃないよ! 2人はもっと特別なんだよ!」

「…いや、そういう関係でもないかな。」

さつきちゃんの頬は赤く染まっていた。
…一体いつになったら、この誤解はとけるんだろうか。




「お前喧嘩強いのばれてんじゃねえか、うける。」

「はっ倒すぞ。」

相も変わらず部活をサボる灰崎を屋上まで迎えに来たら、第一声がこれだ。本当にぶっ殺してやろうか。

「そーだ、お前、シンタローのとこ行ってみろよ。」

「は?」

灰崎は悪そうに笑ってそう言った。シンタロー? その名について考えていると、なのだよと語尾につける男が思い浮かぶ。…緑間?

「あいつ、おもしれえ勘違いしてんぞ。」

「どういうこと?」

「いいから、行ってみろって。」

「その前にお前は部活に来い。」

「チッ。」

そのあと私は、半ば引きずるようにして灰崎を部活に連れていった。ただ、気になるっちゃあ気になるので、あとで緑間に話を聞いてみようと思った。




「お前が殺し屋というのは本当か。」

「誰だそこまで尾ひれつけたやつ!」

面白い勘違いってこれか!! 誰だこんなガセ緑間に吹き込んだ奴! 灰崎か! あいつか!

「てか緑間も信じるな!」

「な、別に信じてないのだよ!」

「じゃあなんで!」

「赤司に聞いたら意味深に笑われたから、こうして確認をとっただけだ!」

「あいつ面白がってんじゃねーか!! 」

なんなんだ! 私はどこから突っ込めばいいんだ!


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