いい子とわるい子の真ん中で


劇はなんていうか、すごかった。主に観客席からの悲鳴が。
内容的には、私はもう慣れていたので平常心で見れた。ただ終わったあとに紫原が「俺女だったら赤ちんのこと好きになってた」と呟いたことの方が気になった。男すら惑わす赤司、恐るべし。

劇が終わったあと、その場の流れで何故か紫原と文化祭を回ることになった。のだが、ただただ紫原の食欲に驚かされた。無限に食べまくってて本当にビビった。そりゃ背もでかくなるよ。

そんな感じで、特に大した出来事もなく1日目は終わった。

そして2日目。今日もさつきちゃんとまわることになった。
さつきちゃんが青峰のクラスの劇を見たいというので、朝はそれを見に行った。劇自体は普通のピーターパンだったのだが、青峰のアクロバティックがほんともうすごすぎた。なに、人間ってあんな簡単にバク宙出来るもんなの。客席からも歓声があがりまくってた。赤司の時と違うのはその中に男の声が多かったというところだろうか。たしかにあれ見たらテンション上がるわ。


「青峰って将来サーカス団入れそうだよね。」

「大ちゃんは運動神経はいいからね、運動神経は!」

「なんで2回言ったの?」

さつきちゃんの言い方に少し含みを感じたが、突っ込まないでおこう。

少し人ごみに疲れた私たちは、裏庭で休憩していた。階段のところに2人で座って、さっき見た劇について話す。他校の人も来ている分校舎内に人はすごく多いが、ここなら他に人もいないし、結構穴場かもしれない。

「あ、赤司くんだ。」

「え、あ、ほんとだ。」

だらだらと文化祭について話していたら、何故か赤司がやってきた。

「あれ? 1人?」

「さっきまで緑間と回っていたけど、店番に行ったよ。」

「! あ、じゃあ私用事あるからこれで!」

「ちょっと待ってさつきちゃん。」

にこっと笑って、急いで立ち去ろうとするさつきちゃんの服の裾を掴んで引き止めた。用事ってなに。一言も聞いてないわ。

「あ、いや、私ちょっと大ちゃんにね、」

「私の目を見て言って!」

「2人とも仲がいいね。」

「あっ、赤司くんと名前ちゃんほどじゃないよ!」

「なんで焦るの?」

私はそろそろ、さつきちゃんの抱いてる誤解を解かないといけない気がする。本当に赤司とはなにもないから。そういうのないから。

「あれ〜? めっちゃ可愛い子いんじゃん。」

後ろから、嫌な声が聞こえた。振り返るとそこには、いかにも不良ですという外見をした男が、…6人。タバコの臭いが鼻についた。

「ねえ、君たち暇?」

「よかったら案内してよ。俺ら道に迷っちゃってさ。」

「え、あの……」

にやり、と嫌な笑みを顔に貼り付けた男の1人が、さつきちゃんの腕に触れた。さつきちゃんの顔がひきつるのを見て私は立ち上がる。

「すいません、そういうのはやめてください。」

そう言ってやんわりと男の手をさつきちゃんから離した。にこりと笑うのも忘れずに。我ながら百点満点の対応じゃないだろうか。あくまでも、穏便に、穏便にだ。

「ん? 君が代わりに相手してくれんの?」

「やめてください。」

「いいね〜そういう顔。」

「っ、いい加減にしてください、先生呼びますよ!」

根元が黒の金髪男に肩を組まれて、思わず強い声が出る。勘弁してくれ、腹が立つ。

「すいません、今から俺たち用事があるので。桃井、名字、行くぞ。」

肩にかかる力が軽くなった。どうやら赤司がほどいてくれたみたいだ。
赤司は片手で私の腕をつかんで引き寄せ、もう片方の手でさつきちゃんを立たせて、この場を去ろうとする。さすが赤司。このままこの場を去れさえすれば…

「あ? 邪魔すんじゃねえよ。」

「っ、!」

「…赤司!」

嫌な音がして、赤司の体勢が若干崩れた。振り向けば男の1人が足を蹴り出していて。恐らく、恐らく、赤司の足を蹴ったんだろう。...なんてことするんだ!

「萎えることすんなよ糞ガキ。」

「…それにしてもやっぱ可愛いな〜、抜け出して俺らと遊ぼうぜ。」

「は、ちょ…!」

腕を引っ張られて再び不良たちの方へと引き戻された。不良との距離が近くなり、腰に手を回される。反射的に背筋が粟立った。

「触らないで!」

「抵抗すんじゃねーよ。」

「っ、」

両手を強く押さえ込まれて、怒りがグラグラと湧き上がった。1発蹴り飛ばしてやろうと思ったけど、さつきちゃんの存在を思い出してなんとか踏みとどまる。
赤司に目をやると、ちょうど立ち上がるところで。良かった、見た感じ大した怪我はしてなさそうだ。

「おい、さっさといこうぜ。」

「車どこ止めたっけ。」

「俺とってくるわ。」

「そっちのかわい子ちゃんも忘れんなよ〜。」

そう言ってほかの男たちがさつきちゃんを捕まえよう動く。しかしその前に、赤司が立ちふさがった。

「あ? 邪魔すんじゃねーよ。」

「…桃井、大人を呼んできてくれないか。」

「は? ふざけんな。」

「赤司くん、でも…、」

「いいから!」

珍しい赤司の怒鳴り声に、さつきちゃんは一瞬体を固まらせたが、すぐに走って行った。

「すぐ戻ってくるから!」

「おい! 追え!」

「逃がすな!」

私の少し後ろにいた男の1人がさつきちゃんを追おうとする。それを見て、私はそいつの足めがけて思いっきり蹴りを入れた。小さく呻いて男が崩れ落ちる。さつきちゃんに手を出させてたまるか!

「なにしやがる!」

「っ!」

違う男に頬を殴られた。その拍子に、男に抑えられていた体が自由になる。殴られた力が思ったより強くて、小さくよろめいた。殴られたところがじんじんと痛む。
軽く見上げると、赤司が私のそばまで来ていた。

「…大丈夫か。」

「大丈夫、平気。」

「落ち着くんだ。キレるなよ。」

「うん。」

赤司の心配とは裏腹に、私は思ったより落ち着いていた。そりゃあ赤司が蹴られたりさつきちゃんに手をだそうとしたり殴られたのは腹が立つけど、我を失って暴れるほどじゃない。
うん、大丈夫。これなら大丈夫、さつきちゃんが戻るまでなんとか我慢でき

「ちっ、めんどくせーことになった。」

「さっさとずらがんぞ!」

「ったく、...てめーのせいでよぉ!」

「ぐっ、!」

「赤司!」

そんな言葉とともに赤司が蹴られた。私は慌てて赤司に駆け寄り、男たちの方を睨みつける。そんな私の腕を、赤司が掴んだ。

「...落ち着け、.俺は大丈夫だ。」

「うん、...落ち着いてる。」

私はゆっくりと深呼吸をして、周りを見渡した。私と赤司と、不良たち。その他には誰もいない。さつきちゃんが先生を連れて来るまでにはまだ時間があるだろうか。

…よし、



「ぶっ飛ばす。」




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