祝福の鐘が聞こえる


今日は4時間目が体育だった。更衣室で制服に着替え、急いで教室へと向かう。早く真ちゃんのもとに行かなければ…!

教室で弁当と携帯を引っ掴み真ちゃんのクラスへ向かおうとするが、携帯がピカピカ光ってることに気付き足を止める。
携帯を開いたらラインが届いてた。相手は高尾くんで、送信時刻はついさっき。なんだろう、今日はお昼高尾くんいないとかかな。
アイコンをタッチして中身を確認する。

『わりい、真ちゃん気づいた』

文面はそれだけだった。はい? 気づいたとは?
高尾くんの文面の意味がわからなくて頭を悩ませていると、教室の扉が開く音が聞こえた。目をやると、そこには真ちゃんがいて。えっなんで。
真ちゃんは私の姿を確認するとずかずかとこちらへやって来た。足が長いのであっという間に私の前に立つ。

「ど、どうしたの真ちゃん?」

「…。」

「あ、まさかそっちから来てくれた?」

「…来い。」

「…え、ちょ!」

そう言うと真ちゃんは私の腕を掴んでそのまま廊下へと歩き始めた。ら、乱暴!
真ちゃんの一歩は大きいので私は少し小走りをしてその後をついていく。歩いている間、真ちゃんは終始無言だった。真ちゃんは前を向いていて、後ろからだと表情は読めない。なんだ、なんなんだ。

このまま真ちゃんのクラスへと連れていかれるのかと思いきや、たどり着いたのは裏庭で。
そこで真ちゃんは足を止めて、やっとこっちを向いてくれた。その顔は真顔そのものだった。

「真ちゃんどうしたの?」

早く教室戻らないとご飯食べれないよ、と続ける。真ちゃんが意味もなくこういうことをするとは思えない。私は真ちゃんが裏庭まで来た理由を話すように促した。

「…クラスの奴が話していたのだよ。」

「? なにを?」

話が掴めなくて少し戸惑う。

「お前が、…告白されたということをだ。」

その瞬間、私は高尾くんから届いていたラインの意味に気がついた。なるほど、気づいたってこれのことか。てか待って、私が告白されたの真ちゃんのクラスにまで伝わってるの? なにそれ恥ずかしい。
真ちゃんは少し口をもごもごさせたかと思うと、なにか言いづらそうに口を開いた。

「お前は俺のことが…好きなのだろう。」

「そりゃまあ。」

私は即答した。
もちろん好きだ。大好きだし愛してる。でもそんなこと当の昔に真ちゃんだって知っていることだ。何を今更言っているんだろう。

「なら何故言わない。」

「え? 」

「朝、お前は言ったな。このままでいいのかと。」

一瞬何のことを言っているのかわからなかったが、すぐに今朝登校中に話したことを指しているのだと気づく。
確かにこのまま一緒でいいのかなとは言ったけど、あんなの私の頭が哲学的になりすぎて言ったことだし。冗談の一種みたいなものだし、私が真ちゃんの側に貼りつき続けることなんて不変の事実なんだからわざわざ気にすることでも…。

そう思ったけど、真ちゃんの目はいつもにもなく真剣だった。あっという間にまとっている空気が変わり、試合中のような鋭い眼差しが私を貫く。

「…好きなのなら、」

そこまで言って真ちゃんは一区切りついて、なにか大切なことを言うかのように深呼吸をした。
私は何も言えず、ただ黙って続きをの言葉を待つ。何故か心臓が激しく脈を打ち始めた。

「ずっと、そばにいればいいだろう。」

「……え、」

真ちゃんの言葉をその意味のままとらえていいのかわからなくて、思わず思考が停止してしまった。
そばにいてもいい、とわざわざ言ったということは真ちゃん語になおせば「そばにいろ」ということで。…なにそれ、なんだそれ、

「ちょっと待って、」

「…お前が俺のことを好きだというのならば、わざわざ俺から離れる理由はないはずだ。そもそも他人に告白されたとはいえ、俺とともに過ごした時間に対してそいつと関わった時間など微々たるものだろう。比べれるまでもない、ましてやそれのせいで悩むなど有り得ないのだよ。」

「待ってってば、」

「そもそも、最近お前が俺に対してあまり積極的ではないのも甚だ疑問なのだよ。今まで散々好きと言っていたうえに実際好きなのだろう。…ならば何故言わない。今更遠慮や引け目を感じているだとしたらそれは浅はかなのだよ。俺が不快に感じるものなら早々に拒否しているし、逆に拒否していない時点で何を意味するかそのぐらい察」

「真ちゃん!」

つらつらと饒舌に話される言葉を思わず叫んでとめてしまう。
真ちゃんの怒涛のデレに私の頭はパンク寸前だ。てか情報量多すぎて私の頭では処理しきれない。待って、ほんと待って真ちゃん。
まさか、なにげなく言ったことに対して真ちゃんがこんなにも真剣に考えてくれてるなんて思いもしなかった。てか押してダメなら引いてみろ作戦効いてた。わりと効いてた。

「……真ちゃん、」

「なんだ。」

「で、それは、どういう意味…?」

デレていることに気づいていても、聞かざるを得なかった。
正直に言うと、少し頬が赤くなっている真ちゃんにどこか期待しているというのもある。この調子だと、いつもみたいに超絶可愛いツンデレを披露してくれるだろう、と。

なのに、

「俺だってお前のことが、」

これは、


「好きだ。」


ちょっと予想以上すぎないか。

「え、あの、」

「…そもそも、好いていなければそばにいることを許すはずがないだろう。」

「えっと、」

「この4年間、お前が俺しか見ていなかったように俺もお前しか見ていなかったのだよ。なぜ気づかない。」

「し、しんちゃ、」

「…俺だって好きなのだよ、お前のことが。」

「……っ、」

「って、…おい!」

焦る真ちゃんの声をどこか遠くに聞きながら、私はその場でぶっ倒れた。目の前が真っ暗になっていく。

駄目だ、デレが強すぎて死んだ。


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