遠くで聞こえるラブソング


押してダメなら引いてみろ作戦を実行して3日たったけど、早くもこれ真ちゃんに効いてるのか不安になってきた。だって!真ちゃん!いつもと態度!変わらないし!!

しかし効果というものは意外なところに現れるもので。


「そっ、それで、俺、名字のことが好きなんだ!」

「えっ。」

わーお。
放課後である現在。私は人生で初めて告白というものをされていた。

部活に行って早く真ちゃん!といつも通り教室を飛び出そうとしたが、ちょっと時間くれない?とクラスの男の子に言われて裏庭に連れていかれ、そして今に至る。ちなみにこの子とは最近席が近くなり仲良くなった。

「な、なんで急に、」

「名字が緑間のこと好きなのは知ってるけど、最近そんなだよな…? 」

「あ、」

「だから、それで、俺……!」

「………よく見てるね。」

曖昧に笑って答えつつも私は心の中で思いっきり頭を抱えていた。
なんで!こっちに!効果でてるの!! 本人には全く効果が無いのに!!





あの後、なんとか告白はお断り出来たけどなにかもやもやしたものが残った。いや、あの男の子は全く悪くないけど。むしろこんな私のことを好いてくれてありがとうって感じだけど。
でもさ! あの子には押してダメなら引いてみろ作戦効いてるのに肝心の真ちゃん本人には効いてないじゃん!!


「名字ちゃーん!」

練習が終わり1年全員でモップがけをしていたら、高尾くんがニコニコ笑顔でこっちにやって来た。話しかけてくるのはいいけど、真面目にモップがけしないと宮地先輩にぶち殺されるよ。
高尾くんはそんなことを気にすることもなく、そのまますすっと私にすり寄ってきた。ん? なんだなんだ。

名字ちゃんさあ、と高尾くんは何故か小声で口を開いた。

「練習前、告られてたっしょ。」

「ぶ、ふっ!」

思わず噴き出した。高尾くんは相変わらずの笑顔でやだー名字ちゃん汚ーいとふざけた調子で言う。誰のせいだと思ってんの。

「…どこから見てたんですが高尾くん。」

「高尾くん教室掃除のごみ捨て当番だったんですよねー。」

至って軽い調子で高尾くんは言った。なるほど。確かにごみ捨て場は裏庭にある。それにしても見られてたんだ……なんか恥ずかしいな。

「それで名字ちゃん。」

「なに?」

「告られたこと真ちゃんに言おうぜ。」

ぜってー面白いことになるから、と言って高尾くんはチラッと真ちゃんの方を見た。真ちゃんは1人で黙々とモップをかけている。そんな真面目な姿もあいらびゅー。

うーん、確かに真ちゃんに言ってみたい。性格が悪いとは思うけど、真ちゃんに言ってみて嫉妬させてみたい。そんな可愛い真ちゃんの姿を見てみたい。欲望に忠実な人間でごめんなさい。
でも駄目だ。今は押してダメなら引いてみろ作戦中なんだから。そんな嫉妬とかさせるなんて全然引いてない。ただのいつもの私だ。

「……あっ!」

「ん? どったの?」

そういえば、押してダメなら引いてみろ作戦は高尾くんに言ってなかった。

「今ね、押してダメなら引いてみろ作戦してるの。」

「なにそれ。」

「真ちゃんに愛の言葉を言うのを控えて意識してもらおう作戦。」

「あー、そう言われてみれば確かに名字ちゃん言ってねえな。」

「でしょ?」

「で、効果でてんの?」

「………………………。」

すっかり黙りこくった私を見て、高尾くんは何かを察したように私の肩を優しく叩いてくれた。その優しさが今は辛い。


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