見下げる瞳は期待する


「そういえば今日、真ちゃんと結婚しない夢を見ました……。」

「なんで結婚する前提なんだよ。」

宮地先輩のツッコミはスルーして私は机に突っ伏した。
夏休みもあっという間に終わり、2学期はすぐに始まった。今は放課後。風紀委員の集まりがあるのだが、宮地先輩と私は時間よりも早く来てしまった。なので時間を潰すために雑談なう。

無視してんじゃねえよ、と宮地先輩から鋭いチョップが脳天に飛んでくる。痛い。

「私が真ちゃん以外の人と結婚式をあげる夢でした……。」

「逆かよ、お前が緑間捨ててんじゃねーか。」

「…私が真ちゃんを諦めるわけないでしょう。きっとなにかの勘違いです。」

「夢は深層心理の現れって言うよな。」

「マジか!」

オーマイガー。そんな悲しい現実見たくない。

「嫌だ…真ちゃんと結婚したい………真ちゃんのお嫁さんになりたい………。」

「結局それか。そーいうのは付き合ってから言えよ。」

「真ちゃんの彼女になりたい……!」

「へーへー。」

そう適当に言って宮地先輩は携帯をいじりだす。あっこれは真剣に話を聞いてくれない姿勢だ。だがしかし!無視されることには!慣れている!(真ちゃんのせいで)
というわけで気にせず話を続ける。

「どうやったら真ちゃんと付き合えますかね…。ラブアタック歴4年以上なのに、真ちゃんうんともすんとも反応してくれない。」

「てめえは押しすぎなんだよ。」

「押しすぎ?」

おーっと、宮地先輩思ったより話聞いてくれてた。厳しいように見えてなんやかんやで後輩に優しい先輩だよ宮地先輩は。いや実際厳しいけど。

「押してダメなら引いてみろ、って言うだろ。」

「おしてだめならひいてみろ……………???」

「新しい文化に触れた原始人みたいな顔するのやめろ。」

「先輩、女子にそういう事言うの駄目だと思いますよ…。」

「女子? どこだ?」

「目の前!」

べ、別に押してダメなら引いてみろの意味ぐらい知ってますし…それよりも宮地先輩の言葉に傷つきました。

「適当に緑間に冷たく振舞っときゃいいんじゃねえの。」

「そんなことしたら死にますよ。私が。」

「てめえがかよ。」

呆れたように宮地先輩が言う。
ふむ、でも押してダメなら引いてみろはいいかもしれない。せっかくの宮地先輩からのアドバイスだし参考にしてみよう。




委員会も部活も終わり、今は楽しい真ちゃんとの下校道。

押してダメなら引いてみろ作戦として、私は好きや愛してるといった言葉を封印することにした。宮地先輩には話しかけなきゃいいだろ、とも言われたけどだからそれ私が死ぬって。
とりあえず、真ちゃんに愛の言葉を言わないというのが私の生死のボーダーラインだったので、この作戦でいく。宮地先輩にはぬるいと言われたが仕方ない。これ以上は譲れない。

愛の言葉を封印しつつ、なんともない会話をしながら2人で車道を歩く。私のくだらない話にもちゃんと相槌を打ってくれる真ちゃんは本当に愛しい。
そんなことを思いながら歩いていた
その時。

「う、わ…!」

足を側溝にとられてガク、と視線が下がる。あ、やばい、転ぶ。そう思ったけども

「………っ!」

「……あ、危なかった…!」

「…気をつけるのだよ、馬鹿め。」

真ちゃんが咄嗟に私の腕を掴んで引っ張りあげてくれたおかげで、なんとか転ばずにすんだ。
し、真ちゃんイケメン…!力持ち!さすが!かっこいい!最高!愛してる!と思わずそう叫びたくなったが必死に抑える。駄目だ駄目だせっかくの作戦をいきなりパーにするとこだった。

「ありがとう、真ちゃん。」

それにしてもこれ思ったよりきついな。今まで呼吸をするように真ちゃんに愛の言葉を口にしてた分、余計に辛い。奥歯をギリイと噛み締めつつも、ありがとうとだけいった私を誰か褒めてほしい。
真ちゃん大好き愛してる!って思いをありがとうに変換した私の声帯頑張りすぎだわ。

「…。」

その時の私は、溢れ出る真ちゃんへの思いを口から出ないよう抑えるのに必死で、真ちゃんが私のことをじっと見てたなんて気がつかなかった。


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