今日は土曜日。今朝の鍵当番は私なのでいつもより30分早く学校に来ている。 朝の鍵当番の日は予め職員室に行って体育館の鍵をとり、体育館を解錠して窓をあけ換気をしておく必要がある。いつも休日の部活の日は直接体育館に行くのだが、今日は一度靴箱で上履きに履き替えてから職員室に行かないといけない。 というわけで靴箱に来たのだが。 「………は?」 上履きを靴箱から出した瞬間、じゃらっという音がした。中を除けば画鋲がたくさん入っていて。 これは、あれか。もしかして、いや、もしかしてじゃなくても…あの女子たちがやったのか。うん、むしろ、それ以外に心当たりがない。 そう思った瞬間、暗い感情が胸をよぎった。握っていた靴箱の蓋がミシリと嫌な音を立てる。 なんなのこれ。なにこれ。陰湿すぎないの。なんで。なんでこんなことするの。頭の中でそんな言葉がぐるぐるする。上履きの中に入っている画鋲を見ると気持ち悪くて吐きそうになった。 こういうことしてくるのなら、直接何か言われる方が何倍も楽だ。 少し、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。…うん、大丈夫だ、大丈夫。とりあえずこの画鋲をどうにかしよう。 握ったせいで少し曲がった靴箱の蓋の歪みをなおして、画鋲をそばにあったゴミ箱に捨てた。今日が土曜の朝で周りに人がいないからよかったものの、もし月曜日に周りに人がいる状況でこれに遭遇してたら周りの視線がいたたまれなさすぎる。やった奴らはそれを狙ったのかもしれないけど。 だけど、この調子だと教室もやばい気がしてきた。 時計を見るとまだ少し時間には余裕があった。月曜の周りに人がいるときに気づくよりも、今見に行ったほうが精神的にいいだろう。そう思って自分の教室を見に行くことに決めた。 まじかよ。 教室に入って自分の机を確認すると、中にゴミが詰められていた。ゴミの種類を見る限り教室のゴミ箱から調達したもののようだ。それを見た瞬間思わず目の前が真っ暗になった。 なんで、赤司と仲良くしてるだけでこんなことをしてくるんだろう。他人の友達関係なんて放ってくれたらいいのに。なんでわざわざこんなことまでして他人の関係に文句をつけてくるのだろう。意味がわからない。 ふつふつと抑えきれない怒りが心の底から沸いてくる。なんで、なんでなの。私が何をしたっていうの。 …これはもう、暴力事件を起こしても正当なんじゃないだろうか。ふとそんな考えが頭をよぎった。 うん、とりあえず殴りたい。ぶん殴ってボコボコにしたい。駄目か。いや駄目じゃない。いいよね? 次あったらあの女どもボコボコにしていいよね。 殴っていいよね。駄目なの? 頭の中で肯定と否定の言葉がぐるぐると回っていく。感情がごちゃごちゃになってきて、泣きそうになった。 「名字。」 「ひ、」 ぐっと唇を噛み締めていると後ろから声をかけられた。振り返ると 「あかし、」 教室の扉のところに立っていたのは赤司だった。なんで、こういう時に限って、いるの。 「なんで、」 「…今日は早くついたけどまだ体育館があいてなくてね。職員室に向かってる途中に階段を上がる名字を見て、不思議に思って、悪いけど後をつけさせてもらった。」 「そっ、か…。」 周りの人がいない時に、と思って教室に来たわけだが完全に裏目に出たわけだ。さっさと職員室に向かって体育館の鍵をあけとけば、見られることもなかったのに。よりによって赤司か。情けない。みっともない。 ヘラっと笑って流そうとしたけど赤司の顔は至って真剣で。ああ、駄目だ。灰崎なら馬鹿だろとか言って適当にあしらってくれそうなのに。こいつは、ほんと。 いよいよ、涙がこぼれそうになった。泣いたら駄目だ。泣いたら… 「暴れたらいい。」 「…へ?」 「後のことは気にするな。俺が手を回そう。」 「…いや、え、なにいってんの。」 最初に、4月に、暴れるなって言ったのは、あんたでしょ。 「…矛盾してるよ。」 「これだけのことをされたんだ。」 赤司の目が鋭くなる。いつもなら、その目と視線を合わすことができずにそらしているのに、何故か今は目が離せなかった。 「好きなようにやれ。」 幻覚だろうか。それとも、視界がぼやけているからだろうか。一瞬、赤司の目の色が薄くなり、ゆらりとゆらいだように見えた。 私は赤司の言葉に対して、何も言わずにただ頷く。涙が1つ、こぼれた。 ← → 戻る |