「名字、バスケ部に入れ。」 あれから1週間、手を貸そうと言った赤司とは特に何もなかった。 あちらから話しかけてくることもなく、私はずっと小学校の時と同じように一人で本を読んでいた。幸せである。 ここで冒頭に戻る。1週間前と同じく、今は放課後だ。 ただ、これは少なくとも、1週間なにも言ってこなかった奴の台詞ではない。 「バスケ部?」 ぶっちゃけ言う。ありえない。 前にも言ったが、私は理由のない行動をする人とは合わない。その典型的な例は体育会系である。 バスケ部なんて、まあ、赤司は別だろうが、体育会系の集まる部活だ。 「そうだ、マネージャーをしてくれないか。」 「私体育会系の人と相性悪いから、入部してもすぐ乱闘騒ぎで退部になると思う。」 「それは許さない。」 高圧的にもほどがある。凛とした強い目に屈しそうになるが、ここは私の平和な学校生活のためにも、一貫して拒否させてもらう。 暴力騒ぎで有名になるのはごめんだ。 「その性格を治すためには、荒療治が一番だ。暴力を封じてマネージャーをしろ。」 その理論がよく分からない。でも賢い赤司が断言するぐらいだし、なにか絶対的な根拠があるんだろう。 赤司の性格はなんとなく分かってきた。基本は温厚だけどたまに威圧的で、でも人を不快にさせない、人を引っ張ったりするのに向いているんだろうな。 「俺を信じろ。」 だけど分からないこともある。 なんであまり親しくもない人間に対して、こんな風に俺を信じろとか言えるのか。面倒見がいいだけだろうか。厄介ごとだろうに、放っておけばいいのに。 そんな気持ちが、どうやら顔に出ていたらしい。 「俺は、借りた礼を返したいだけだよ。」 そういって赤司は微笑みながら、1枚の紙を出した。相変わらず綺麗な笑顔だ。反則的だ。 柄にもなくキュンとしてしまう。女子か。あ、私女子だった。 「この紙は?」 「入部届けだ。」 「えっ、入らないけど。」 「名字。」 そう言って、赤司はその綺麗な顔をグイと私へ近づける。こいつ絶対自分の顔の綺麗さを知っている。絶対わざとやっている。 「入ってくれないか。」 果たしてうんという返事以外に選択肢があるのだろうか。答えはNOだ。 ← → 戻る |