こうして夜を深めあおう


朝ごはんの準備も終わったしお風呂にも入ったし、あとはもう寝るだけだ。明日の予定を頭の中で確認しつつ布団を敷いていたら、突然携帯がなった。
携帯を開けばメールが届いていて、宛先には「宮地先輩」の文字。

『3分以内に来ないと刺殺する』

思わず悲鳴が出た。




自己最速記録を更新する勢いで走って宮地先輩の泊まっている部屋の前に来た。ゼエゼエいう息を整えてからノックをする。

「入っていいぞ。」

聞こえたのは大坪主将の声だ。
部屋に入ると大坪主将と宮地先輩と木村先輩と高尾くんが円をかいて座っていた。奥の布団では真ちゃんがナイトキャップをかぶって寝ている。ああそう言えばレギュラーの5人は同じ部屋だった。

消灯まであと1時間あるとはいえ今は10時。良い子の真ちゃんはもうおねむの時間だ。
それにしても寝てる真ちゃん激カワすぎでしょ。あとで写真を撮ろう。ついでに添い寝も…いややめておこう。バレた時が怖い。

「で、なんですか?」

「トランプするぞ。」

「へ?」

「緑間寝ちまってどついても起きねえからよ、かわりにお前が入れ。」

そう言って宮地先輩は高尾くんの持ってるトランプの束を指さした。うわ、ほんとにある。

「高尾が持ってきてた。」

「やっぱ泊まりっつったらトランプっすよね!」

「遊びに来てんじゃねーんだよ。」

「あでっ!」

高尾くんを殴りつつもここに座っているということは、なんやかんやで宮地先輩もトランプする気満々なのだろう。

1軍の1年生は2人しかいないので、この合宿ではレギュラーの5人で1部屋ということになっている。ということは高尾くん、端から先輩たちとトランプするつもりで持ってきたのか。すごい度胸。

「でもなんで私なんです?」

「人多い方がいいだろ。」

「祐也先輩とか誘わないんですか?」

「そう思ってさっき2年の部屋いったけど、枕投げしててうるさかったから今正座させてる。」

「哀れ…。」

よりによって宮地先輩に見つかるとか悲劇すぎる。ご愁傷様です。

「てかお前、やりたくねーのかよ。」

「いや、トランプするのはいいんですけど、そのためだけにあんな物騒なメール送ってくるのやめてくれません?」

「あ?」

「なんでもないです…。」

「宮地お前なんて送ったんだよ。」

「早く来いって言っただけだ。」

木村先輩にメールの内容を随分マイルドにして伝える宮地先輩に色々突っ込みたくなったが我慢した。私だって命は惜しい。

「じゃ、始めましょうか!」

ニカッと笑顔を浮かべて、高尾くんはトランプを5等分に配り始めた。
ちょっと待って、

「なにするの?大富豪?」

「七並べ。」

「七並べ!?」

思わず叫んでしまった。え、七並べって。いや、悪くはないけどこういう時って大富豪とかババ抜きとかじゃないの。え?偏見?
驚いていると向かいにいる木村先輩が説明してくれた。

「大坪が七並べとババ抜きしかルール知らねえって言うからよ。」

「悪いな。」

「なるほど…。」







こうして5人での七並べが始まった、のだが。

「ダイヤの6とめてる奴早く出せよ、てめえだろ高尾。」

「いた!俺じゃないっすよ!!」

「俺だ。」

「木村てめえ!」

…あれ?七並べってこんな怒声飛び交うゲームだっけ?もっと和やかにするものじゃなかったっけ?
自分の知ってる七並べを疑うレベルで殺伐としてるんだけど、あれ?

「次は俺か。」

「あ!」

ハートの9の位置に大坪主将がジョーカーを置いた。…あーあ、せっかくそことめてたのに。
ジョーカーを置いた場所のカードを持ってる人はそのカードを出さないといけないというルールにしたので、私は自分の札からハートの9を置く。

「名字そっちじゃなくてスペードの10出しやがれ、持ってんだろ。」

「え、なんで分かるんですか、こわ。」

「出さねえと轢く。」

「脅すのやめてください。」

「大坪ナイス。やっと出せる。」

宮地先輩が物騒に脅してくる中、木村先輩はスッとハートの10を置いた。あ、そこを置いてくれるのは私も助かる。

「宮地、脅して出させたらゲームにならんだろう。」

「チッ。」

「大坪主将…。」

「あとスペードの10はとめてくれたほうが俺も助かる。」

「おいこら。」

宮地先輩を諌める大坪主将は天使に見えたが実際は小悪魔だった。まあ大坪主将がいいって言うならとめておこう。宮地先輩の視線には気づかないふりだ。顔が怖いけど気づかないふりだ。

結局、消灯時間になるまで私たちはトランプをやり続けた。結構楽しかった。


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