高尾くんにもう仕事は終わらせた!と言ったのはいいけど、明日の朝ごはんの準備をするのを忘れていた。時間的にだいぶやばい。結構ギリギリ。 このことが宮地先輩にバレたら埋められると思い光の速さで台所へ向かう。合宿先で土葬されるなんてごめんだ。 台所には誠凛の火神くんがいた。火神くんは冷蔵庫に大量のジュースを詰め込んでいて…ってすごい量だな。 台所の入口でそんな光景を見ていると火神くんと目が合った。少し気まずいなと思ったが、意外なことに火神くんの方から声をかけてきた。 「お前…飲むか?」 「え?」 そう言ってジュースを1本差し出してくる。 「いいの?」 「大量にあるし…。」 俺らだけじゃ飲みきれねえから、と火神くんは続けた。じゃあなんでこんなに用意したんだろう。謎だ。 「あ、じゃあせめてお金払うね。」 「別に気にしなくてもいいぜ。どうせ部費なんだし。」 部費なら尚更駄目なんじゃ…と思ったが、正直今すごく喉が渇いているのでありがたく受け取ることにする。缶のプルタブをあけて一口飲めば、ぶどう味の炭酸が喉を通り抜けた。おいしい。 「ありがと、おいしい。」 「おう。」 私は、火神くんがジュースを詰め終わるのを見て冷蔵庫の方へ向かう。中は見事にジュースだらけだった。すごいな。冷蔵庫は誠凛と共用しているので、野菜室から秀徳用のほうれんそうを明日の朝で使う分だけ出した。 包丁とまな板を取り出してほうれんそうを切っていく。これは明日の朝ごはんのみそ汁用だ。 「名字さん、」 「ぎゃ…!」 突然後ろから声をかけられて危うく手を切りそうになった。振り向くと、そこにいたのは、 「黒子…。」 「黒子てめえ、包丁持ってる奴にいきなり声かけたらあぶねえだろ!」 「すいません。」 「びっ…くりした!久しぶりだね、黒子。」 「お久しぶりです。」 誠凛戦の時に姿は見ているがこうして話すのは久しぶりだ。相変わらずとんでもなく影が薄い。 「で、黒子どうしたの?」 「少し水を飲みに来ました。名字さんのそれは朝食ですか?」 「あ、うん。」 「名字さん料理上手ですもんね。」 「普通だよ。」 「…いいですね。」 そう言って黒子と火神くんが何故か目をすっと細めた。え、なに。誠凛だって監督さんが料理してくれるんじゃないの。 「まあその話は置いとこうぜ。」 「そうですね。」 「?」 「名字さんは緑間くんを追って秀徳に行ったんですよね。」 「もっちろん。」 「お前緑間のこと好きなのかよ。変わってんな。」 「自然の摂理。」 火神くんがなんのことだ?と首をひねった。 いやいやいやあんなに可愛くてかっこよくてビューティホウな人間に惚れないわけがないでしょ。まさしく自然の摂理。 「それでも一切進展してないのが名字さんらしいですね。」 「ひど!」 黒子の会心の一撃!私の心は傷ついた。 「心の中ではいつでも彼女だもん……。」 「おい黒子、こいつ大丈夫なのか。」 「いつも通りです。」 「可哀想な子を見る目で見るのはやめてください。」 嘘泣きして慌てさせてやろうか、と思ったその時、私の頭になにかが乗った。 「……この感触は真ちゃんの手だ!」 「なんでわかるんですか。どうしたんですか、緑間くん。」 ギュルンと首を180度回転させる勢いで振り向けば、そこには案の定愛しの真ちゃんがいた。私の奇行に若干引いた顔をしている様子ですら可愛い。 「なにしにきたんだよ。」 「貴様には関係ない。」 「ああ?」 「喧嘩はやめてくださいよ。」 「真ちゃん、頭なでてくれるのはすごく嬉しいんだけど私お風呂まだだから汗く、いたたた!握力!握力!!!」 「誰が撫でるか。」 痛い痛い!と真ちゃんの腕をタップすれば、頭を締め付けていた手はあっさり離された。みかんを握りつぶすかのように思いっきり握られた。めちゃくちゃ痛かった。私は孫悟空か。 「やばい絶対頭へこんだ。傷物にしたんだから嫁に「断る。」……早いね。 」 「なんだこいつら。」 「気にしたら負けですよ。」 だからそういう可哀想な子を見る目はやめてってば! ← → 戻る |