魔法はまだかけないで


本をたくさん読んだおかげで勉強ができるようになり、どうせなら私のことを誰も知らないところへ行こうと思い帝光中学校を受験した。
合格通知が来た時の両親の笑顔は、今も忘れない。中学生活は期待に満ちていた。

なのに、

「新入生代表挨拶、赤司征十郎。」

なんてこった。

晴れの入学式にも関わらず、私は小さく頭を抱えた。同姓同名というわけもなく、舞台上で淡々と挨拶文を読むのは、特徴的な赤髪だった。
他の人ならまだ、私が喧嘩っ早いことを知っているから、一人で本を読んでいてもスルーしてくれるだろうに。よりによって、なんで赤司。

あの日から赤司がたまに、私のことを見ているのには気づいていた。確実に、知りたがっている。
帝光中学校は生徒の数が多い。私の手の出す早さがバレたら、ふざけてちょっかいを出してくる人がいる可能性がなきにしもあらず、だ。
そして私はその挑発に乗らずにいられる自信がない。
唯一の対策は、人にかかわらず一人でいることだ。周りを気にしなければ大丈夫だ。

なのになんと、不幸なことに赤司と私は同じクラスだ。これはまずい。非常にまずい。
入学式も終わり教室でホームルームが始まった。やばい。赤司めっちゃこっち見てる。バレてる。
終礼が終わった瞬間、急いで家に帰ろうとしたら誰かに腕を掴まれた。目の前には、赤司。

詰んだ。




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