これ以上なにをほしがればいい


地獄の合宿1日目が終わり、夜。
マネージャー1人だけどまあ帝光の合宿よりは選手少ないし楽っしょ!と思っていたのだが死ぬかと思った。もう一度言う、死ぬかと思った。ものすごく帰りたい。

そんな気分の時は真ちゃんで癒されるに限る。というわけで男風呂の前で待ち伏せなう。怪しくなんてない。
お風呂の前には共用スペースとしてソファと机がおいてあったので、そこに深く腰掛け風呂の入口を眺める。

あーあ、早く真ちゃん出てこないかなあ。お風呂上がりで湿った肌、水の滴る髪、上気した頬。う、想像するだけで鼻血もんですわ。まあ帝光時代の合宿でも同じことして鼻血出したんだけど。
その経験を生かして今回はちゃんと箱ティッシュを持ってきた。学習能力の使い道。

ガラララと扉が開いて、来たか天使!と振り返ったが、出てきたのは真ちゃんではなく高尾くんだった。別にガッカリなんてしていない。
高尾くんは私の方を見て、私の目的をすぐに把握したようだ。

「ほんっとに真ちゃん中心で生きてんね。」

「あったりまえでしょ。」

「仕事とかいけてんの?終わってないのに来たなら、宮地サンあたりブチギレそうだけど。」

「ぬかりはないよ。このために全部終わらせてきた!」

「さすが。」

ひゅう、と高尾くんが口笛を吹いた。高尾くんが今お風呂から出てきたってことは真ちゃんももうすぐ出てくるかな。妬ま…羨ましいことに2人はニコイチだからどうせ一緒にお風呂入ってたんでしょ妬ま…羨ましい。
高尾くんはどっこいしょーと私の横に腰かける。髪からはまだ雫が落ちていて、水も滴るいい男とはこういう人のことをいうんだろうなと、その横顔を見て思った。まあ私の中での圧倒的グランプリは真ちゃんだけど。

「そういえば名字ちゃん。」

「ん?」

「なんで宮地サンのこと下の名前で呼んでんの?」

「?宮地先輩は宮地先輩だけど。」

「いや、弟の方。」

「えっ今更?」

「え?俺今日知ったんだけど。」

まじかー、と高尾くんは続けた。
なるほど、バスで驚いてたのはこのことか。確かに言われてみれば、今まで真ちゃんや高尾くんの前で裕也先輩呼びをしたことがなかった気がする。

「結構前からだよ。宮地裕也先輩って呼んでたんだけど長いからやめろって本人に言われて、そっから名前呼び。」

「へぇ〜。」

「何その顔。」

「べっつにぃ。」

私の話を聞いて、高尾くんはほうほうと頷きながら何故かニヤニヤしていた。なんで。

「あ、分かった。高尾くんも名前で呼んでほしいんでしょ。」

「いんにゃ全く。」

「ばっさりいくね。」

真顔でそう言われて少しだけ傷つく。そんなあっさり言わずにちょっとぐらいは食いついてほしかった。
高尾くんが望むなら、和成くんでもかずくんでもかずちゃんでもかずりんでも呼んであげるのに。最後のは違うか。

「でも真ちゃんは下の名前で呼んでほしいかもしんねーぜ?」

「じゃあ真太郎ちゃんって呼ぼうかな。」

「それやべえ!」

ぶほっと噴出して高尾くんが笑い出した。でたー、大声で笑うことで有名な笑い袋高尾だー。(命名者宮地先輩)
笑い転げる高尾くんに和成ちゃんって呼んだりして戯れていたら、風呂場の扉が開く音が聞こえた。勢いよく振り向けばそこには待ちに待った真ちゃんがいて…

「ってうわあああああ!あいっっっかわらず真ちゃん色気半端ないね!!!!やばい!!!」

「なっ…、貴様今年もか!いいから早く拭け!!」

驚いたような呆れたような目で真ちゃんは私の鼻を指さす。おっといけないやっぱり今回も出たか鮮血。
それもこれも真ちゃんの色気が悪い。いや眼福ですけどね。

とりあえず予め用意しておいた箱ティッシュで鼻をおさえる。

「用意周到準備完璧。」

「名字ちゃん鼻血たれてんぜ。」

「黙って抑えてるのだよ。というか、何故ここにいる。」

「いや…、目的はもう達成できました、はい。」

色気振りまく真ちゃんを見れたおかげで帰りたいという気持ちはすっかりなくなった。さすが真ちゃん。血もなくなったけど。
私の言葉に、どういうことなのだよ?と首をかしげる真ちゃんが可愛すぎて私の鼻の血管がやばい。

「あっ、そーいえば名字ちゃんが真ちゃんの呼び名変えたいって。」

「別に変えたいわけじゃない。」

「なんなのだよ。」

「なんでもないよ真太郎ちゃん。」

「ぶっは!!」

「………次その呼び方したらぶち殺すぞ。」

「さーせん。」

真ちゃんの脳の血管もやばいことになったから、もう二度とこの呼び名は使わないでおこう。


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