子どもじみた内側で


夏休みに入り、毎年恒例(らしい)一軍調整合宿の日になった。

高尾くんとの「どっちがバスで真ちゃんの隣に座るかじゃんけん」で勝利を収めた私は、無事真ちゃんの隣に座ることができた。ぶつくさと文句を言いつつさりげなく私を窓側にしてくれた真ちゃんマジ天使。

ちなみに高尾くんは、私たちから見て通路を挟んだ隣の窓側の席に、そしてその隣の通路側に裕也先輩が座ることになった。
1軍の1年は私と真ちゃんと高尾くんしかいないので、余った高尾くんが先輩の隣になるのはまあ仕方ないことだ。だから、出発していないのにさっそく頭をはたかれていた高尾くんは見て見ぬふりをしとく。いったいなにしたの。



「うーみーだああああ!」

「やかましいのだよ!黙れ!!」

「…おいしめろ。」

「あ、はい。」

「風うぜえんだよ。」

「すんません。」

もうすぐ民宿につく、というところで外の景色に海が現れた。海だ!海だ!とテンションの上がった私は、外にほかの車がいないのを確認した上で窓から顔を出して叫んだわけだが、真ちゃんと裕也先輩に怒られた。きちんと反省して、今はおとなしく席に座っている。

それにしても、真ちゃんはともかくさっきの裕也先輩の顔ガチ過ぎて怖かった。
顔色を伺おうとチラチラ裕也先輩の方を見ていたら、その横に座っている高尾くんと目が合った。高尾くんは私と裕也先輩を交互に見て、何かを察したようににやっと笑う。

「宮地サンは名字ちゃんが窓から落ちないよう心配してただけっしょ。」

「えっ。」

「なに勝手なこと言ってやがる殺すぞ高尾。」

「いって肘!!」

不機嫌裕也先輩による肘鉄が胸にクリーンヒットして高尾くんが叫んだ。今のは痛い、ご愁傷様です。
心の中で合掌していると、眉間にシワがよりまくった裕也先輩と目が合う。心配されただなんてそんな勘違いしてません滅相もない、という意味を込めて私は必死で首を振った。あんな狂暴な肘私の胸では受け止められない。骨が死ぬ。
裕也先輩はチッと舌打ちを1つしたが肘はおさめてくれた。なんとか危機は去った。

「お前ら、うるさいぞ。」

そう前から声が聞こえる。ぐっと少しだけ伸びをして見てみると、一番前に座っている大坪主将がこちらを見ていた。あっ私たちのことか。

「いや、裕也先輩が…」

「名字なに人のせいにしてんだよ、テメェふざけん、」

「私のせいですすんません!」

「もうすぐ着くから大人しくしてるんだぞ。」

「はい。」

そう言って大坪主将は前を向いた。裕也先輩がすごい顔で睨んでくるので、咄嗟に視線を窓の外にやってかわす。さすがに裕也先輩のせいにするのはやりすぎたか。やばい背中に視線がバシバシくるマジでやばい殺されそう。

ふと、窓ごしに反射している真ちゃんと高尾くんを見てみると、少し驚いたような顔で私を見ていた。ん?急にどうした?
ブチギレている裕也先輩のことも忘れて真ちゃんの方へと振り返る。真ちゃんがなにかを言おうと口を開いた瞬間、バスが止まった。外を見ると目の前には今回お世話になる民宿があった。どうやら着いたみたいだ。

「で、どしたの真ちゃん。」

「…いや、もういい。降りるぞ。」

そう言って真ちゃんは席を立った。いや、途中でやめられると気になるんですけど。
でも真ちゃんはもう言うつもりはないらしくそのままスタスタとバスを降りていった。ちょ、置いてかないで!


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