気持ちも一緒にめしあがれ


今日、すべての教科のテストが返ってきた。あんなに小テストが悲惨だった英語と数学はなんとなんと平均点を超えていた。真ちゃんが教えてくれたところと真ちゃんに貰ったルーズリーフしか勉強していなかったのにこの結果にはさすが真ちゃんとしか言えない。崇め奉りたい。

ちなみに真ちゃんに平均点超えたよー!と知らせたら、俺が教えたのだから当たり前なのだよとドヤ顔をしていた。あんな最強可愛い表情を写メらなかったことについては今でも後悔している。本当キュートさ爆裂してた。

そして、真ちゃんにテスト勉強を手伝ってもらったお礼をするため、なにかラッキーアイテムになりそうなものをプレゼントしようと思ったのだが、まず真ちゃんが持ってなさそうなものが分からなかった。あげたのに持ってるとか嫌だしね。

なにをあげようか悩んだがいいアイディアが出ず、スペックが高いことで有名な高尾くんに相談してみたところ「料理作ったら?前に真ちゃん名字ちゃんの料理好きって言ってたじゃん」という返事が来た。なにそのパーフェクトアンサー。あなたが神ですか。
料理、なるほどその考えはなかった。盲点だ。うん、そうしようなにか作ろう。料理は料理でも気軽に食べられるもののほうがいいと思いお菓子を作ることにする。

それにしても、バレンタインと誕生日のパイ以外で真ちゃんにお菓子を作るのはなにげに初めてだ。まあバレンタインにこれでもかというぐらい豪華なもの作ってるけどね!巨大ケーキやら巨大トリュフとかを作ってでかいのだよ!と毎年怒鳴られているのは私です。



「真ちゃん、これあげる!」

テストが返ってきて数日後の朝。そう言いながら、ラッピングされた袋を真ちゃんに渡した。

なにを作るかいろいろ考えた末、無難にマドレーヌを焼いてみた。初めて作ったが結構上手くできたと思う。自分でも味見をしたけど普通に美味しかった。無難じゃないものはバレンタインと誕生日パイで十分だろうし、よし完璧だ。

「…?」

受け取った真ちゃんは、怪しげな目をして袋を観察していた。失礼な毒とか盛ってないから。惚れ薬とかが手元にあればまた別だけれども。

「テストのお礼だよテストの!おかげて赤点回避できたし!」

「…ああ。」

そう言えば、やっと納得のいったようで、真ちゃんは頷いた。なんでそんな警戒心強いの。わたしゃ悲しいよ。

「マドレーヌ焼いてみたの。また食べてね。」

「…ちゃんとしたものか?」

「ちゃんとしたものだよ!」

真ちゃん私に対して警戒心強すぎない?野生の猫かな?なにそれ可愛い。
…………え?私の普段の行いのせいだって?ソンナコトナイヨ。

「…まあ、もらっておく。」

真ちゃんはそう言って、無表情で袋をカバンへと入れた。

…あれ?なんだかそっけない。
自惚れかもしれないけど手作りお菓子と言えば真ちゃんはもう少し喜んでくれると思っていた。ツンデレ全開で。
だけど実際、目の前にいる真ちゃんは照れもせず無表情で。

…うーん。あまり嬉しくなかったのかな。真ちゃん甘いもの好きだと思ってたんだけどな。
やっぱり高尾くんの言う通り料理にすればよかったか。



「あら、名前ちゃん。」

次の日の朝、昨日の朝はちょっとあれだったけど気持ちを切り替えて、さあ今日も真ちゃんとのハッピータイム(登校)を楽しむかと思って家を出た。そして真ちゃん家に向かうと家の前で真ちゃんのお母さんに出会った。真ちゃんに似て上品でとても綺麗な人だ。

「おはようございます。」

未来のお義母さん(になるかもしれない)ので最上級の笑顔を作って挨拶をする。お義母さん(仮)はニコリと優雅に微笑んで口を開いた。

「名前ちゃんももうすっかりお嬢さんになって。」

「そうですかねえ。」

「こんな可愛い子に好かれるなんて真太郎も幸せ者ね。」

「そんな、とんでもないですよ。」

もっと言ってください!もっと言ってください!!
表情は笑顔だが、内心では危機迫る表情でお義母さん(仮)の肩を揺さぶっている。お世辞とはわかっていても真ちゃんのお母さんに言われれば嬉しさもひとしおである。生きててよかった…!並の感動と言っても過言ではない。

「そういえば、昨日わざわざお菓子を頂いたみたいね。」

「…大したものじゃないですけどね。」

一瞬何かと思ったけど、よくよく考えれば昨日のマドレーヌを言っているということがわかった。謙遜とかではなく本当に大したことはない。真ちゃんを照れさせることも喜ばせることも出来なかったのだから

「あれ、よっぽど嬉しかったのねえ。真太郎、大切そうに食べてたわよ。」

「……………………へ?」

「少し頂戴って言っても、かたくなにくれなくて残念だったわ。」

「???」

「あらいけない、もう行く時間よね。真太郎よんでくるわ。」

じゃあまたね、と言って真ちゃんのお母さんは家へと戻っていった。
一方私は固まったまま動けないでいた。思考がうまく回らない。今、真ちゃんのお母さん、なんて言った?
……タイセツ?ソウニ?タベテタ?

んんんん?と脳内パニックになっているとがちゃりと扉の開く音がした。目線をやると、ちょうど真ちゃんが家から出てくるところだった。
傍に来るまで少し待ち、声をかけてみる。

「真ちゃん。」

「なんだ。」

「昨日のマドレーヌ、どうだった?」

「…普通だったのだよ。」

そう答える真ちゃんの顔はどこかぎこちない。
…これはあれですか。もしかしなくてもあれですか。

「さっきね、真ちゃんのお母さんと喋ってたんだけど、」

「?」

「大切そうに食べてくれたみたいでなによりです。」

「なっ!」

真ちゃんの顔がみるみる赤くなっていく。私は咄嗟に手で口を抑えるが駄目だにやけがとまらない。やっぱりそうだった。渡した時に素っ気なかったのは照れていただけなのか。それともいつものツンデレだったのか。
無表情といういつもと違った反応だったので、どちらなのかは分からないけど、顔を赤くしてわなわなと震える真ちゃんがとても可愛いのでどちらにしても許そうと思う。
私は口をパクパクさせて何かを言おうとする真ちゃんの腕に手を回した。

「喜んでくれたんだね!ありがとう真ちゃんかわいい!!」

「…うるさい!離れるのだよ!」

「やだ!」

真ちゃんの腕からは、微かにマドレーヌの匂いがした。


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