新しさにひたる午後


結局、あれから毎日、赤司と放課後勉強会をしている。なんやかんやで押しに弱い自分の性格をどうにかしたい。
2人で勉強会と言っても、お互い無言でたまに私が質問をしてそれに赤司が答えてくれるようなものだ。分からないところをすぐに聞ける分、一人でやるより捗るのでそのあたりはとても助かっている。

ホームルームが終わり、さあ今日も2人で勉強をしようとしたその時、机を動かしながら赤司が口を開いた。

「今日は、緑間も呼んでいいか。」

「へ?緑間?」

頭の中に、なのだよと語尾に付ける緑の男が出てくる。…なんで緑間?

「なんで急に。」

「昼に会って話したんだが、図書館で一人で勉強しているらしくてね。どうせなら誘おうと思った。」

「私、緑間とあんまり喋ったことないんだけど。」

「これから話せばいいだろう。」

そう言って赤司は携帯を開き、電話をかけた。おそらく相手は緑間だろう。あ、もう誘うのは決定なんだとどこか他人事のように思った。相変わらず赤司は私の意見を聞いてくれない。もう慣れたけど。

それにしても緑間か…。部活を一緒にやってはいるが、選手とマネージャーとして何回か最低限の会話をした以外に、特に関わったことがなかった。変人で有名だし、私自身そんなに自ら選手に話しかけに行くタイプでもないし、本当に顔見知りという程度の仲だ。

どうやら電話が終わったらしく携帯を閉じて、じきに来るそうだ、と赤司は言った。私はペンをくるくると回しながら赤司に聞く。

「緑間ってどんなやつ?」

「真面目でいいやつだよ。」

「へー。やっぱ数少ない一軍の1年同士だし、仲いいの?」

「そうだね。よく一緒に将棋をするよ。」

「渋っ。」

将棋って中学生がするものなのか。しかもバスケ部が。

「名字は将棋、出来るかい?」

「基本的なルールなら知ってる。」

「そうなのか。じゃあ、今度やろうか。」

「赤司めちゃくちゃ強そうだからやだ。」

赤司は頭の回転が早いから、将棋も凄く強そうだ。ボコボコにされる未来しか見えないのでとりあえずお断りしておく。
赤司も本気で言ってはいないのか、そうか、とだけ言ってそれ以上は誘ってこなかった。お、今回は珍しく押しが弱いな。

その時、教室の扉が開く音が聞こえた。目線をそちらにやれば、大きなウサギのぬいぐるみを抱えた緑間がいた。あれは今日のラッキーアイテムだろうか、ぶっちゃけすごく可愛い。

「来たか。」

「赤司。まったく、急に呼び出すなんて一体…、」

そこまで言って、緑間が私の方を見て固まった。数秒して、聞いていないぞという目で赤司を見る。対して赤司は少し面白そうに笑っていた。
お前まさか私がいること言わなかったのか。
このままなのも気まずい気がしたので、とりあえず私から声をかけることにする。

「どーも。」

「…誰なのだよ。」

「まさかの。」

顔を認識されていないとは。地味にショックを受けた。確かに緑間は他人を気にしなさそうだけど、同じ部活なんだから顔ぐらい覚えてくれていてもいいじゃないか。

「マネージャーの名字だ。」

「…ああ。いつも灰崎と一緒にいるやつか。」

納得したような顔をする緑間に対して私は少し脱力した気分になる。赤司の次は灰崎とセット扱いか。

「…とりあえず、よろしくね。」

「ああ。」

「緑間も席につけ。」

赤司に言われて緑間は近くの机をこちらへとくっつける。律儀にウサギのぬいぐるみが座る椅子も用意しているのを見て少し笑ってしまった。そんな私を怪訝な目で見つつ、緑間は着席して教科書類をカバンから出し始める。
今更だけど、なんなんだろうこのメンバーは。

「ほんとに3人でするんだ。」

「ああ。そうだ、せっかくだし勝負でもしようか。」

「…?」

「赤司って勝負好きだよね。」

「否定はできない。」

「勝負とはなんだ。」

「テストの順位で勝負したいんだって。あ、私はしないから2人でやんなよ。」

「やろうか、緑間。」

「…赤司には勝てる気がしないのだよ。」

それに関しては完全に緑間に同意だ。うんうんと頷く。出来れば勝つ見込みのない勝負はあまりしたくない。
そんな私たちを見て、ふむ、と少し考える素振りをしたあと赤司が口を開いた。

「なら、緑間と名字でやればいいだろう。」

「なんでそうなるの。」

「こいつとか?勝負にならんだろう。」

「喧嘩売ってんの?」

軽く馬鹿にしたような目で見てくる緑間に少し苛立つ。手に力が入り、持っていたシャーペンがバキと嫌な音を立てた。
そりゃ眼鏡だし緑間も賢そうだけど私だってそこまで馬鹿じゃないし。

「別に、緑間と名字は同じぐらいの学力に見えるけどね。」

「…む。」

赤司のその言葉になにか緑間のスイッチが入ったようだ。眉間にしわをよせてこちらを睨んでくる。てかなんでこっち睨むんだよ赤司睨めよ。

「こんなやつには負けんのだよ。」

「よし、決定だな。2人とも頑張れ。」

「え、まじで勝負するの。」

まじかよ、と思うが緑間は至って真剣な顔をしていて。ちなみに赤司は面白そうに笑っていた。これはこいつわざと緑間を挑発したな。心底楽しい、って顔しやがって。

とたんに黙って問題集を解き始める緑間を見て、私は2人にバレないよう小さくため息をついた。いつだってろくなことに巻き込まれない。

「2人の勝負、楽しみにしてるよ。」

「……赤司お前そんなキャラだったか?」

「俺はいつもこうだ。」

「赤司はいつもこんなんだよ。」

赤司が横暴なのは今に始まった話ではない。緑間も早く慣れた方が楽だよ。
私は、どこか悟った頭でそう思った。


戻る
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -