「え!?真ちゃん歌うの!?真ちゃん歌うの!?本気!?え、まじ!?まじで歌うの!?」 「うるっさいのだよ!!」 叫ぶな!と真ちゃんに言われるがこんなの叫ばずにいられるわけがない。え、だって、え、本気?真ちゃん本気で歌うの?? 錯乱状態の私を放置して、真ちゃんはテレビ画面に向き合った。流れてくるイントロは、いわゆる懐メロと呼ばれる曲だった。しかしそれはちゃんとしたラブソングで。 …これは本気でやばいかもしれない。 「ぶっは、お前ラブソングとか歌えんのかよ!」 「黙るのだよ。」 「…高尾くん黙って聞こえないから。真ちゃんのラブソングが聞こえないから。」 「理不尽!」 高尾くんをそう諌めると、戸惑った声が返ってきた。ごめんね高尾くん。でもこればっかりは仕方がない。 やべえよ名字ちゃん目がイってるよ、などと高尾くんは言うが、今の私にはそれに返事を出来る余裕がなかった。 今、ここで、私に課せられた使命はただ一つ、真ちゃんの歌声を全て漏らさず聞き取ることだ。 だって真ちゃんがラブソングを歌うなんてこんな機会、これを逃したら二度と来ない。 さあ私に舞い降りよ聴力の神よ。歌声のみならず息遣いまで全て聞き取るんだ!! 「……ジーザス。」 真ちゃんのラブソングが終わって、私の口から漏れたのは、ただ一言、それだけだった。 「おい。」 「…なに。」 「なに、ではない。何故貴様俺が歌ってる間ずっと震えてたのだよ。」 「感動と興奮と萌えと熱い感情を全身で表現してた。」 「…意味がわからないのだよ。あと、高尾、いい加減笑うのをやめろ!」 歌が終わった瞬間から弾けるように笑っている高尾くんを、真ちゃんはそう怒鳴りつける。笑い声はカラオケルーム中に響きわたっていて、確かにうるさい。 「…あー、やべえ超うけた。」 「笑いすぎなのだよ。やかましい。」 「てか俺、真ちゃんが歌っている時、笑い堪えるのに必死すぎて歌聞く余裕なかったんだけど。」 「知るか。」 しかし私は見ていた。イントロが始まってすぐに死角になっているテーブルの下で携帯をいじり、録音モードにしていた高尾くんを。あとでデータをもらおう。そして毎日聞こう。 「名字。」 名前を呼ばれたので真ちゃんの方を見れば、真ちゃんは真顔でこちらを見つめていた。やだ照れる。 「真ちゃん。」 「…。」 「かっこよかったよ。」 「…そうか。」 先程は高尾くんに遮られたとはいえ、私はそこまで鈍感ではないから真ちゃんがなにを考えているかなんてすぐにわかる。きっと今回は、私が高尾くんの歌声に惚れ惚れしていたことに嫉妬したのだろう。はあああああなにもう本当になに。相変わらず可愛さ国宝級ですわ。 「よしじゃあもっかい歌って真ちゃん!」 「断るのだよ。」 「即答かよ!」 今日も私たち3人は、こうして楽しい時間を過ごしている。 ← → 戻る |