綻びたのは対抗心


「…終わった。」

チャイムの音が鳴る。それと同時に私はシャーペンを机の上に置いた。

今日はテスト最終日。今受けたテストで全教科が終わったが、毎日真ちゃんと勉強したおかげで欠点をとりそうな教科はない。嬉しい。
後ろの席の子がテスト用紙を回収し、軽くホームルームが行われる。そしてそれが終わった瞬間、私は教室を飛び出した。

私たち1年生は今日でテストが終わったが、2年生や3年生は科目数の都合上、明日までテストがある。それにより、実は今日部活がない。つまり今から私たちはオフなのだ。

これに気がついた時、私はテスト終了記念として真ちゃんと高尾くんを遊びに誘った。しかし、高尾くんは乗ってくれたが真ちゃんには断られた。結構しつこく誘ったのだがきっぱり断られた。

仕方ない、高尾くんと2人で遊ぶか。そう思っていたのだが、ここで奇跡が起きる。
それは昨日の朝にTVを見ていた時に起きた。

『かに座のあなた!明日のラッキーアイテムは“ラブソング”で〜す!』

おは朝のお姉さんが陽気な声でそう言った瞬間、私はとあることを思いついた。それはもう、天才的な考えを。
即座に私は携帯を開き、真ちゃんに一通のメールを送った。

『明日、テストが終わったらカラオケに行こう!』




「いえーいカラオケ!」

「俺久々来たわ!」

「…。」

あの後、『CDを用意するからいいのだよ』という返事に対して『生歌こそ人事を尽くしてると思うけど』と返せば、それはもう、人事を尽くす真ちゃんが誘いを断るはずもなく。
無事に私たちは3人で遊ぶことに成功しました。と、いうわけで、カラオケルームなう。

「ふううううう!!!」

「名字ちゃんテンションたっか!」

あてがわれた部屋のソファに勢い良くダイブすれば、真ちゃんに落ち着くのだよと言われる。いやいや、何言ってるの真ちゃん、これが落ち着いていられるかっての。
まず真ちゃんとカラオケ来るの自体初だし、それに、だって、今日のラッキーアイテムがラブソングってことは、つまり、あれでしょ、真ちゃんのラブソングが聞けるってことでしょ!!ただでさえイケボな真ちゃんの!!ラブソングが!!
なにそれたまらん!!!

「じゃあ、真ちゃんからなんか曲入れなよ。」

「ラブソング歌うときは私の方見て歌ってね!!」

「俺は歌わんのだよ。」

「えっ。」

お前たちが俺に向かって歌え、とソファの上でふんぞり返って言う真ちゃんに対して、私と高尾くんは顔を見合わせる。

「まじかよ。」

「まじでか。」

「まじなのだよ。」

「…仕方ないね、じゃあ私から入れよう。」

そう言って私はデンモクを手にとる。
真ちゃんのラブソングが聞けないのは残念だけど、まあ、仕方がない。確かによく考えれば、真ちゃんが進んでラブソングを歌うはずがなかった。
まあ、でも、一緒にカラオケに来れただけでも十分だよ私は!むしろ真ちゃんに望まれてラブソングを捧げられるとかすごくご褒美です本当にありがとうございます!!!

「それでは、名字名前、歌わせていただきます。」

「なに入れたの?」

「ラ●のラブソング。」

「わお。」

軽く深呼吸をして、マイクを手に取る。イントロが流れて曲が始まった。

「好きよ、好きよ、好きよ!」

「…チッ。」

「ぶっは!!」

真ちゃんをガン見しながらウインク付きで歌えば、舌打ちで返される。そして、それを見ていた高尾くんは大声で笑い始めた。えっ、2人とも酷くない?

最後まで歌いきったが、結局、始終真ちゃんは眉間にしわをよせたままだった。それに対して私はカバンからハンカチを出して、キイイイと噛み締める。

「なによ…!」

「…なんだ。」

「真ちゃんから求めてきたくせになんなのよその態度は!!酷い!!!」

「誤解をまねくような言い方はやめろ!」

「求めてきたってやべえ!」

ひい、ひい、と高尾くんはさらに笑う。ちなみに噛み締めていたハンカチは真ちゃんにぶんどられた。やだ真ちゃんったら乱暴…!

「…あー、笑った笑った。んじゃ、次は俺ね。」

高尾くんは手馴れた様子でデンモクを操り出した。しばらくして、イントロが始まる。この曲は、知ってる。最近CMでよく聞く有名なラブソングだ。


「…うわ。」

「…。」

「うっま…。」

思わずそう声が漏れる。
さっき散々笑われた腹いせに高尾くんが歌っている最中に思いっきり笑ってやろうと思っていたが、いかんせん高尾くんの歌がうますぎる。
え、なにこれ、歌手かよ。バスケしてる場合じゃないよ高尾くん歌手目指しなよ。うますぎ。

ほう、とその美声にうっとりしながら聞いていたら、あっという間に高尾くんの歌は終わった。歌が終わったあと高尾くんはニカッと笑ってきて、そのかっこよさに不覚にも惚れそうになった。これは高尾くんモテますわ。

「どうだった?」

「すごかったよ高尾くん!めちゃくちゃうまかった!!歌手目指しなよ!!」

「いやあ照れるね。」

「…高尾。」

高尾くんに溢れる興奮を伝えていると、ふと真ちゃんがそう言って立ち上がった。え、なに、帰るとか言わないよね。

「なんだよ。」

「…貸せ。」

「ん?貸せってこれ?マイク?」

「ああ。」

「どうしたの真ちゃん。」

「…あ、俺、わかったかも。もしかして真ちゃん嫉「黙れ高尾。」

高尾くんがなにかを言おうとしたが、真ちゃんが被せてきたせいでなにを言おうとしたのかは分からなかった。
真ちゃんはそのままデンモクになにかを入力して、マイクを手に取る。

…これはもしかして、


「俺も歌おう。」



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