熱いとおもったら最後


私は昔から喧嘩が強かった。喧嘩というか、力。握力や腕力、脚力など色々が他人より強かった。
ちなみに親の力は普通なので、遺伝というわけではない。

親は心優しい人で、いつも喧嘩で相手をボコボコにした私を悲しい顔で見た。ボコボコとは言っても、小学生の喧嘩だったのでせいぜい打撲とかだったが。
その顔を見る度に、もう喧嘩はしないと誓うが、本当にこの人達の子供か?と思うぐらい気が短かかった私は結局喧嘩をするのだった。

これではいけないと思い、私は人と関わるのを控えようと思った。喧嘩の原因が大抵、喧嘩を売られることだったからである。
気性の荒い女子から一転、教室で一人で本を読む女子へとジョブチェンジした。なかなか無謀だとは思ったが気づいたことがある。

一人の方が楽だ。

別に一匹狼を気取るわけではないが、他人を気にせず一人でいるのは楽しかった。あと本を読むのが好きなのもある。
周りは私の元々の素行を知っているので、話しかけてくる人はいなかった。明らかに怖がられていた。
というわけで私は、喧嘩をしないよう楽しく一人を過ごし、読書により成績もあがり、親にも褒められる、という穏やかかつ幸せな毎日を送っていた。
赤司が来るまでは。

あと半年で中学生、という時に赤司は転校してきた。綺麗な顔をしていて運動神経もよく温厚でお金持ちで性格も爽やか、そんな赤司はすぐにモテていた。
まあそうなると、学年中の人気をかっさらっている赤司に不満を持つ生徒もいるわけで。

すっかり物静かな文学少女を気取っていた私は、毎日放課後に図書室へと行っていた。ある日、最終下校のチャイムが鳴り、図書室を出て廊下を歩いていると、靴箱のあたりで男子が数人固まっているのが見えた。邪魔だ。

すると特徴的な赤髪が見えた。赤司だ。
どうやら数人の男子が赤司を取り囲んでいるらしい。

「てめえ調子乗ってんじゃねえぞ。」

取り囲んでいる男子の一人がそう言った。
なるほど。これはあれだ。妬んだ相手を呼び出して集団でリンチするとかいうあれだ。
とうの赤司はなにを考えてるかわからない感じの顔をしている。
怯えたり怖がったりしない赤司に対して周りの男子は、明らかに苛立っていた。

そして私も苛立っていた。早く帰りたいのに、ちょうど赤司が立っている所に私の靴箱がある。

「ねえ、どいてよ。」

ここは直接言うしかない。そう思って声をかけたら、取り囲んでいる男子たちがこっちを睨んだ。あ、うざ。

そう思った瞬間手が出た。

「なっ…!」

「どいてって言ってんの。」

そして、結論から言うと、私は久しぶりに喧嘩をした。やらかした、と気づいた時には赤司を残して全員逃げていった。

「助かったよ、ありがとう。」

赤司は私を怖がらず、相変わらずの真顔でそう言った。ん?赤司って文学少女な私しか知らないよね?
赤司の様子はいつも通りだ。

結局そのまま私達は別れて帰った。
次の日、昨日のことがバレていたらどうしようと不安になりながら登校したが、別に何もなかった。喧嘩した相手は私の姿を見ると怯えた様子をしていた。
どうやら赤司も男子たちも、誰も言いふらしていないようだ。

おかげで、それから卒業するまでずっと文学少女でいられたが、私の不安は消えなかった。
なんだろう、この嫌な感じは。




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