悪いふたりの秘密ごと


結局、バスケ部で服装検査に引っかかった人はいなかった。おかげで部活中宮地先輩の怒号が響くということもなかった。良かった良かった。

…え、高尾くん?彼はちゃんとした服装をしていたよ、うん。そして真ちゃんの隠し撮りは待ち受けにしました。

ちなみに、昼休みに真ちゃんと一緒に毛布でくるまろうとしたら、ブチギレた真ちゃんに毛布を思いっきり顔面に押し付けられた。爆笑しつつも助けてくれた高尾くんがいなかったら、危うく窒息死したかもしれない。真ちゃん怖い。ラッキーアイテムがデスアイテムになるところだった。
とりあえず真ちゃんの機嫌を治すためにおしるこを3缶あげたら、仕方ないのだよと言ってあっという間に機嫌が良くなった。真ちゃんが素直可愛いくてつらい。



「お邪魔します!」

「お邪魔しまーす。」

部活が終わり、私は今日も真ちゃんの家に行く。昨日と異なるのは、高尾くんもいるということだ。高尾くんも真ちゃんに教えてほしいところがあるらしく、一緒に勉強をすることになったのだ。


「…悪いが、少し席を外す。」

勉強会開始から約1時間。真ちゃんは急にそう言った。

「え、どしたの真ちゃん。」

「俺としたことが、明日のラッキーアイテムの調達を忘れていたのだよ。」

「今から行くの?俺も一緒に行こうか?」

「大丈夫だ、すぐに戻る。」

「ちなみに明日のラッキーアイテムはなに?」

「コンビニのおにぎりだ。」

その言葉を聞いて私と高尾くんは同時に噴出した。それを見て真ちゃんは怪訝な顔をするが、私たちの笑いは止まらない。

「え、待って、おにぎりって、おにぎりって、」

「大体、今買っても腐んじゃん、なんで今買うんだよ、ひい、」

「もちろん明日も買う。だが、前日から準備してこその人事だ。」

「意識たけえ!」

「ふ、ふふ、さすがすぎる。」

「…行ってくる。」

あーあ、真ちゃん拗ねちゃった。どうやら笑いすぎたみたいだ。私は、止まらぬ笑いをこらえながら、拗ねた様子で部屋を出る真ちゃんに手を振った。

笑いにより出てきた涙を指で拭き取り、私は参考書に向き合う。よし、切り替えだ、勉強勉強。

そう思ったのだけど、

「なあ名字ちゃん、」

「なに。」

「…真ちゃんって、エロ本持ってると思う?」

えろほん?

一瞬言葉の意味がわからなくて、少し考えた。しかしすぐに、頭の中でエロ本という言葉に変換される。
真ちゃんが、エロ本?

…いやいやいや、

「持ってないと思う。てか持っててほしくない。」

「いや、男は全員持ってる。」

「でもあの真ちゃんだよ?」

「あーいうやつに限って凄いんだって。」

「そうなの?」

「そうだぜ。」

「…てかなんで私にその話題ふるの。女子にふっちゃ駄目なやつでしょ。」

「名字ちゃん、そういうの気になるかと思って。」

「私のイメージとは。」

一度、高尾くんが私に対してどう思っているのか詳しく聞く必要があるんじゃないか、これは。
高尾くんはニヤリと悪そうな笑みを浮かべて、言葉を続けた。

「…真ちゃん戻ってくる前に、ちょっと探してみねえ?」

「なにを。」

「エロ本。」

「真ちゃん怒るよ。」

「バレなきゃいいんだって。」

「あるかどうかも分かんないし。」

「ぜってーある。」

「なにその確信。」

「男の勘。」

「いやいやいや、」

「じゃあ、やめとく?」

「やるに決まってるでしょ。」

「どっちだよ!」

ぶっは!と高尾くんは笑い出した。だってそんなの気になるんだからしょうがない。
未来のお嫁さん(自称)として真ちゃんの趣味を知っておくのも大切だと思う、と高尾くんに言えば若干引かれた目で見られた。え、エロ本探しの言いだしっぺは高尾くんなのに。何故だ。解せぬ。

「セオリー通りにいけば、まずベットの下から?」

「そうだね。」

「よし、見るか。」

「ないよ。」

「覗くのはっや!」

高尾くんの言葉を受けてシュバッとベット下を覗けば、高尾くんにそう突っ込まれた。もう、高尾くんったら。真ちゃん関係で私の動きが早くなるのは今に始まったことじゃないでしょ。

「じゃあ次はクローゼットかなー。」

「了解。」

「躊躇いなく開ける名字ちゃんほんと半端ねえ。」

「なさげだね。」

「ここにもねーか。」

「てかこれさ、真ちゃんにバレたら殺されるね。」

「今更っしょ。」

そう言って私たちは顔を見合わせて笑う。悪友、という言葉が脳内に浮かんだ。

「じゃあ次は…。」

「待って高尾くん。」

話そうとした高尾くんを私は手で制する。そして耳をすませば、聞こえてくるのは、足音。

「真ちゃん帰ってきた!」

「やべえクローゼット閉めねえと!」

迅速に、なおかつ音が出ないようクローゼットを閉め、私たちは急いで机の前に座る。私たちがシャーペンを持ったのと部屋のドアが開いたのはほぼ同時だった。

「よお。」

「おかえり真ちゃん。」

「…?」

やけに背筋よく座る私たちを見て、真ちゃんは首をかしげたのだった。


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