ほんの少しのしかえし


「なんだ、お前ら付き合ったのかよ。」

「は?」

そう灰崎に言われた瞬間、私は咄嗟に傍にあった木を殴った。

昨日、ラーメン屋を出た後、何故か私の友達発言で機嫌を良くした赤司は、私を家まで送ってくれた。高級車で。
もちろん断ったのだが、結局は押し負けてしまった。いや、赤司の押しが強いのは前からだったけど、昨日の赤司の勢いは本当に凄かった。初めての高級車に緊張しつつも、車の中ではたわいのない話をした。

そして今朝。朝練では赤司に何度か話しかけられた。そして教室でも話しかけられた。女子の視線がとても痛かった。

そんなことがあってからの上記の灰崎の言葉である。昨日故意に2人っきりにしてきた挙句、部活をサボって裏庭まで迎えに行く羽目にさせてきた上での、この言葉である。
木に罪はないがこれは殴っても仕方ないと思う。むしろ灰崎を殴らず、標的を木にした自分を褒めたい。ここでまた喧嘩沙汰にしたら、再び赤司と2人っきりになるところだった。今日それはさすがに辛い。

衝撃で少しだけ揺れている木を見て灰崎は言葉を続けた。

「うわ、お前ほんとに力つえーんだな。こわ。」

「うっさい。次付き合うとかそういう系の話したら殴るから。」

「へーへー。」

「……とりあえず、部活行くよ。」

「めんどい。」

「………。」

今日はそういう気分じゃねえんだよなー、とあくびをしながら言う灰崎への殺意をなんとか静める。落ち着け私。

「…明日からしばらく部活休みだし、今日ぐらい我慢して来な。」

「休み?」

「明日からテスト一週間前じゃん。」

それすらも覚えていないのかお前は。
帝光中学校は勉強にも力を入れているので、一週間前の部活動は禁止となっている。勿論バスケ部も例外ではなかった。

「今日来たら明日から好きなだけサボっていいから、ほら。」

「しゃーねーな。」

「よっしゃ。」

「なんか奢れよ。」

「逆でしょ。灰崎が私になんか奢ってよ。」

「ブスに奢る趣味はねえ。」

「え、灰崎、美人には貢ぐタイプなの。引くわ。」

「殺すぞ。」

「受けてたつよ。」

「そこは受けるなよ。」

軽くファイティングポーズをとれば、灰崎は少し眉間にしわを寄せてそう言った。その反応がなんだか面白くて、私は少しだけ笑った。


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