だって人間ですし


「名字ちゃん!」

毛布を使っていかに真ちゃんといちゃつくかという妄想にふけっていると、後ろから声をかけられた。振り返ってみると、

「あ、おはよう高尾くん。」

「ちょ、かくまって!」

「え、なに、無理じゃん高尾くんでかいし。」

真ちゃんほどではないが、私から見れば高尾くんも充分に大きい。なのに高尾くんは私の背後で縮こまって隠れようとしてくる。いや、無理だよ隠れきれてないよ。ほとんど丸見えだよ。

「どしたの。」

「いや、校章わすれちゃって…。」

そういう高尾くんの視線の先には宮地先輩がいた。なるほど、昨日のL●NEを気にしているんだな。確かに宮地先輩に校章忘れがバレたら、高尾くんは今日の部活でキツめに絞られるだろう。だから私に隠れて、やりすごそうとしているのか。

だが、甘い!

「駄目だよ高尾くん、ちゃんと紙にチェックするからね。」

普段の私なら、高尾くん友達だし仕方なしね、と言って見逃してあげるけど、今の私は風紀委員なのだ。見逃さずにバッチリと仕事をこなす、それでこそ私が理想とする風紀委員である。高尾くんとは友達だけど、ここは心を鬼にしてしっかりチェックするよ。と、思ったのだが、

「…いいのかよ名字ちゃん。」

「なにが。」

「俺がここで検査に引っかかったら大変な事になるぞ。」

「どういうこと。」

「俺のせいで宮地さんの機嫌が悪くなったら、名字ちゃんにも被害いくぜ。」

「お、脅しだと…!」

卑怯だよ高尾くん!
宮地先輩の苛つき被害が私にも来ると考えると、私はつい動揺してしまう。え、なに、私も怒られるかもしれないってこと?何それ怖っ。

いやいやいや、落ち着け私。惑わされるな私。ここは風紀委員としてのプライドを保つんだ私。大体、ここで高尾くんの校則違反を見逃した方がバレた時に宮地先輩に怒られるし……

「見逃してくれたら、今日の体育でサッカーしてる真ちゃん隠し撮りしてあげるけど、」

「通っていいよ高尾くん!宮地先輩に見つかる前に!早く!」

「ちょろっ。」

誰がちょろいだ誰が。ただ私は欲望に忠実なだけだ。


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