第九話「悪魔とブラックコーヒー」


飛行機に乗って

ブラックジャック、ピノコ、未来の三人は

ドイツにあるクロイツェル中央病院にやって来た。

ブラックジャックと未来はクロイツェル博士に

会いに行き

ピノコは間違えて買ってしまったコーヒーを

ブラックコーヒーに変えてもらいに行った。

「クロイツェルは休養でスイスに行っています」

受付の金髪の女性はそう冷たく言うだけだった。

仕方なく未来とブラックジャックは

病院を出た。

「じゃあスイスに行くしかないのかな?」

「ああ、そうだな…おっと!」

ブラックジャックが未来にそう言うと

女の子とぶつかってしまった。

その子はイギリス人らしく

金髪で青い目をしていた。

くるっと巻いている髪と白いリボンが

かわいいと未来は思った。

「誰かを待っているのかな?」

「わあ、悪魔!」

女の子はブラックジャックを見て怯えてしまった。

おそらくブラックジャックが

黒づくめの服を着ているからだろう。

「おいおい、ぶつかっておいて

そんな言い草はないだろう」

「黒男さんは悪魔なんかじゃないわよ」

ブラックジャックと未来は優しく言った。

しかし女の子は警戒を解かない。

「近寄らないで!」

女の子は地面に落ちていた空缶を

ブラックジャックに投げた。

空き缶はブラックジャックの手に命中した。

「ひどいことをするな」

「黒男さん、血が…」

空缶でブラックジャックの指が切れてしまった。

うっすらとブラックジャックの指に

血がにじんでしまう。

それでもブラックジャックは

女の子に笑顔を向けた。

「黒い服を着ているから悪魔だっていうのか?」

「そうよ」

女の子はまだブラックジャックに

心を許していなかったが

「あ…絆創膏あるよ」

申し訳なさそうにポケットから

絆創膏を取り出してブラックジャックに

渡した。

「なら、これと交換しよう」

ブラックジャックは女の子と

絆創膏とハンバーガーを交換した。

「それって…」

本当はそのハンバーガーは

ピノコが食べるはずだったが

未来は言いかけてやめた。

ぐうっと女の子のお腹が鳴ったからだ。

女の子は近くにあったベンチに座り

一生懸命ハンバーガーを食べた。

「もしかして何も食べていないの?」

「うん…昨日からね…」

未来の心配そうな問いに

女の子は食べながら答えた。

女の子と未来の隣に座るブラックジャックも

少し驚いた。

「パパはどうしたんだ?」

ブラックジャックがそう聞くと

女の子は少し悲しい顔になり

「この間、よその女の人と出て行ったきり…」

そうぽつりと答えた。

「あ…」

ブラックジャックは何かを思い出したようで

「黒男さん?」

未来は心配になった。

「いや…なんでもない」

しかしブラックジャックは

本当になんでもないという顔で首を横に振った。

「悪魔から一つ忠告しておこう。

知らない者から物をもらうんじゃないぞ。

じゃあな」

そう言ってブラックジャックは

女の子の頭を優しく撫でた。

女の子からもさっきまでのブラックジャックへの

警戒心も感じられなかった。

「ちぇんちぇー!

ブラックジャックちぇんちぇー!」

立ちあがったブラックジャックに

ピノコが駆け寄ってきた。

手にはハンバーガー屋の

小さな紙袋を持っている。

「コーヒー取り換えてきたのよさ。

お砂糖とミルクなしのブラックコーヒー!」

「ピノコちゃん、お疲れ様」

コーヒーを差し出したピノコに

未来が微笑んだ。

「ブラック?コーヒー先生?」

女の子は不思議そうにそんな三人を見た。


to be continued