帰らないでください(ツイステ/学園長)

深夜、ナイトイレブンカレッジにある学園長室。

「ふう…」

私ディア・クロウリーは一人で調べものをしていて

ため息をついた。

長谷川くん…

あの子がどうやら異世界から来たと分かり

毎日のように長谷川くんが元に帰れる方法を

一人こっそりと探していた。

…私、優しすぎませんか?

しかし手がかりは何も見つからない。

もうすぐ長谷川くんがこのナイトイレブンカレッジに来て

一か月になろうとしている。

「グリム!」

その時、頭の中に思い浮かべていた長谷川くんの声がした。

ちょうど考えていた人物の声だから

幻聴かと思った。

「グリム!どこ?」

しかしもう一度長谷川くんの声が聞こえた。

どうやら使い魔を探しているらしい。

「やれやれ…」

私は席を立って学園長室の外に出た。

「あ!学園長!」

「あ!ではありません。

何時だと思っているのですか?」

少し呆れながら私は長谷川くんに聞いた。

「すみません!

グリムと喧嘩をしてしまって…」

「…まあ、そんなところだろうと思いましたよ」

私はそう言いながら周りを見渡した。

長谷川くんの使い魔の姿は見当たらない。

「では一緒に探してあげましょう。

私優しいので」

「え?いいのですか?

ありがとうございます!」

ぺこりとお礼のお辞儀をした長谷川くん。

健気だな…なんて思ってしまう。

「学園長?」

「長谷川くん…一つ聞きたいことがあります」

気がついたら私はそう言っていた。

「はい?」

「もしあなたが言っていた…ニホンでしたよね?

元の住んでいた国に帰られる日が来たら

あなたは帰ってしまうのですか?」

「え?」

長谷川くんは驚いた顔をしていた。

何故そんなことを聞くのかと思っているのだろう。

私も自分で自分の質問に不思議に思った。

だが…聞かずにはいられなかった。

「それは…帰りたいとは思いますけど…」

「私に会えなくなってもですか?」

二度目の質問はとても小さな声になってしまった。

「え?」

もう一度長谷川くんが不思議そうな顔をした。

「いえ…なんでもありません。

忘れてください。

さあ、あなたの使い魔を探しましょう」

そう言って私は廊下を歩き始めた。

背後から長谷川くんの小さな足音が聞こえた。


私の質問が現実になった日…

長谷川くんがニホンに帰る日が

本当にやって来たのはそれから半月後だった。

「学園長…本当にありがとうございました」

鏡の前で長谷川くんはあの日のように

感謝の意味をこめて私にお辞儀をした。

鏡の間には長谷川くんと私だけ。

別れがつらいから長谷川くんは

私以外の人には黙って帰るつもりらしい。

「長谷川くん…いいえ、未来」

気がついたら私は目の前にいる人を

初めて名前で呼んだ。

目頭が熱くなって仮面をつけていてよかったと

心底思った。

「学園長?」

不思議そうな未来を私は思い切り抱きしめた。

そうか…私は未来が好きだったのだ。

抱きしめながら自分の気持ちを痛感した。

別れの時だと言うのに…。

「帰らないでください」

泣きそうな声で私は懇願した。

「何故?」

私の腕の中で未来はそう言うのがやっとだっただろう。

「あなたを…愛してしまったからです」

尚も未来を抱きしめながら私は告白した。

帰ってほしくない

その気持ちだけがあった。

未来はおそるおそる私の背中に

細い腕をまわしてくれた。

想いが通じたと分かった私は心から安心した。

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